第73話 ようこそ

「あれは……」


 通路の先、広い吹き抜けの真ん中に、黒い球体が浮かんでる。

 本部そっくりの巨大なタピオカだ。


「見るからに怪しいナ」


「危険な気配を感じます……」


「ダークマターの気配だ……きっとあそこにスプリィムがいる」


 それにしても、尋常じゃないダークマターの強さだ。

 これは下手に手を出すべきじゃないね。


「分身の私じゃ太刀打ち出来ない、本体と合流しよう」


「そうだニャ……作戦通りに動いた方がいいナ」


「ではソーラ、本体の居場所まで案内をお願いします」


「うん、本体は……」


 本体は……。

 あれ? ちょっと待って……。


「どうかしましたか?」


「ソーラが固まっちゃったナ」


「あのね……本体の居場所が分からない……」


「「えぇっ!?」」


 しまったぁ~、私のバカ!

 どうして本体の居場所を分かるようにしておかなかったの?

 せめて本体と分身で、通信出来るようにしておくとか……いくらでも方法はあるでしょ。

 少し前の自分を説教したい!!


「自分で自分の居場所が分からないニャ?」


「ソーラらしい、不思議な状況ですね」


「二人ともゴメン! なんとか探してみるから」


 とりあえずレーダーは使えるから、それで居場所を探して──。


『あらぁ? ネズミさん達が集まってるわね?』


 ──っ!?


「この声、スプリィムだミャ!」


「マズいです、見つかってしまいました!」


 しまった、うかつだった。

 あれだけ強力なダークマターを操れるんだから、私達の居場所を見つけるくらい出来て当然だよ。

 とにかくこの場を離れなきゃ。


「早く逃げよう! 二人とも急いで──」


『フフフッ、逃がすわけないでしょう?』


「うニャッ!? 体を引っ張られル!」


「ひゃわわっ! 抵抗出来ませんっ」


 体が浮きあがっちゃう、黒い球体に吸い寄せられる!

 ダークマターの力で、私達を引き込もうとしてるんだ。


「チコタン! ミィシャン! 私につかまって!!」


「ひゃいぃ~」


「うナナッ」


 二人ともつかまえた! 

 ダークマター、バリアー展開!


『そんな薄っぺらいバリアーを張ったって、なんの意味もないわよぉ?』


 そんなことは分かってるよ、怪我をしないようにバリアーを張っただけ。

 どうせ抵抗出来ないなら、こっちから突っ込んでやる!

 黒い球体は目の前だ、突撃──。


「──えっ、吸い込まれる!?」


 壁の感触がない!

 バリアーごとズブズブっと飲み込まれちゃってる。

 これもダークマターの力なの!?


『さぁ、いらっしゃい』


「ひううぅっ!?」


「ニャウァ~!?」


 ……。


 ……ここは……。


 黒い壁。キラキラのネオン。

 ここは黒い球体の中かな、無重力の不思議な空間だ。

 そして──。


「フフフッ」


 この声……間違いない。

 こいつが敵の親玉だ。


「ようこそネズミさん達、歓迎するわぁ」


「スプリィム……!」


「さぁ……死ぬ覚悟は出来ているかしら?」

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