第22話 ブチ切れ

「女の人の悲鳴でした!」


「向こうの方角からニャ」


「二人とも私のバリアーから出ないようにね」


 凄い悲鳴だった、きっと何かよくないことが起きてるんだ。

 急がなくちゃ。


「待て、いかせぬ!」


 はい?

 なんでおじいちゃんは私達の邪魔をしてくるの?


「おじいちゃん邪魔!」


「通すわけにはいかん!」


「さっきの悲鳴が聞こえなかったの? 誰かが酷い目にあってたり、怪我でもしてたらどうするの!」


「お主等には関係ない! とにかくここから去れ!」


「関係なくない! 知らない人でも困ってたら助けるのって当たり前でしょ? 分かったら道を開けて!」


「小娘が生意気な口をきくな! 余所者がワシ等の事情に首を突っ込むでない。この星にお主等のような余所者の居場所はない、邪魔じゃ!」


 邪魔はそっちでしょ!

 なんでそんなに私達を追い出したいのか知らないけど、今は考えたって仕方がない。

 話の分からないおじいちゃんの相手をしてる場合じゃないんだから。


 ダークマター、ちょこっとだけ助けて!

 ついでに私達を囲んでる宇宙人達もなんとかして。


「うっ、なんじゃ!? 体が動かぬ……」


「うっ……動けない!?」


「体が……固まって……」


 よし、これでおじいちゃん達は無視できる。

 ちょっと可哀そうだけど、今はとにかく急がなくちゃ。


「チコタン、ミィシャン、今のうちに!」


「はい!」


「ニャ!」


「こらっ、戻ってこい!」


 しばらく待てばダークマターの効果が切れて動けるようになるから、それまでじっとしててね。


「わああぁぁん!」


 今度は子供の泣き声だ。

 そこの角を曲がった辺りから聞こえた。

 角の向こうで一体何が……。


「お願いです! うちの子を……ラプリーを返してください!!」


「ママァ~!!」


「ダメだ! ゲスーチ司令官の命令だ、子供は連れていく」


 女の宇宙人が地面に倒れて泣いてる。

 小さな女の子の宇宙人も泣いてる。

 その女の子を、背の高い男の宇宙人が抱えてる。

 男はゴミクズの名前を言ってた。


「なるほどね、大体分かった」


「どう見ても悪者がいたナ」


 あの男、お母さんから子供を取り上げて連れていこうとしてるよね。

 しかもゴミクズのところに。

 見ただけで状況が分かったよ、だったらやることは一つしかない。


「助けよう!」


「ちょっと待って下さい」


「……どうして?」


 なんでチコタンは私を止めるの?

 どう見てもあの男が悪者でしょ?

 このままだと女の子が連れていかれちゃうよ。


「あの男が着ている服は、ヴェーゼ戦闘員の制服です」


「だったら完全に敵じゃない、助けなきゃ!」


「私だって子供は助けたいです、でもソーラが危険な目にあうのも嫌です。だから慎重に行動してほしいです」


 ……そっか。

 私のことを心配してくれたんだ。

 そうだよね、私がムチャしたらチコタンやミィシャンに心配かけちゃうよね。


「ゴメン、でも大丈夫だよ。絶対にムチャはしないから!」


「はい、約束ですからね!」


「ラプリー! お願いラプリーを返して!!」


 おっと、そろそろ助けに入らなくちゃ。


「しつこいぞ! この子供は有益な実験台として我々ヴェーゼが有効活用するのだ。子供が欲しいならまた産めばいいだろう? そうすればまた回収にきてやるぞ」


「そんなっ、酷すぎます……」


 ……ふーん……。

 ヤバい、ブチ切れそう。

 っていうかブチ切れた。


「ちょっとアイツ、地平線の果てまで吹っ飛ばしてくるね」


「ダメですよソーラ」


 ムチャはしないって約束したのに、チコタンまだ私の心配をしてるの?


「地平線の果て程度では生ぬるいです、宇宙の果てまで吹っ飛ばしてください!」


 あ、そういうこと。

 チコタンもブチ切れてるんだね。


「吹っ飛ばすだけじゃ足りないニャ! けっちょんけちょんにしてやるニャ!」


「もちろん! 任せといて!!」

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