第16話 チコタンとミィシャン

「ギャオオオォォォッ!」


 空気を震わせる鳴き声。

 見上げる程の巨大な体。

 鱗で覆われたゴツい皮膚。

 大きくて鋭い牙。


 こんなの図鑑でしか見たことない。


「恐竜だ……ティラノサウルスだ……」


 ティラノサウルスって確か、最大級の肉食恐竜だったよね。

 図鑑の絵と違うところは、体中が青いっていうところくらいかな。

 青色宇宙ティラノサウルスだね。


「マズい、あいつはこの辺りのヌシなんダ。勝手に縄張りに入ったから怒ってるのかもニャ」


「グオオオォォォッ!!」


 うん、アレは完全に怒ってるでしょ。

 ずっとこっちを睨んでるし。

 っていうかこっち向かって走ってくる!?


「襲ってくるヨ!」


「とりあえず逃げよう!」


「あははは……大きい青色さんですぅ……」


 チコターン! しっかりして!

 恐怖のあまり放心状態になってるよ。


「ソーラは宇宙船をお願イ! ボクが囮になるかラ」


「ミィシャン!?」


「ここでヌシが暴れたら宇宙船が壊れちゃうかもしれない、だからボクがヌシをひきつけるヨ。ソーラは宇宙船を動かしてテ!」


「そんな、ムチャだよ!」


「円盤の裏側にメータがあるから、それを満タンにしテ!」


「待って、ミィシャン!」


 ダメだ、一人でいっちゃった。

 あんなに大きなヌシに向かっていくなんて、信じられない。

 でもミィシャンの言う通り、ダークマターを操れるのは私だけ、宇宙船を動かせるのも私だけ。


 う~、宇宙船も大事だけどミィシャンの方が……。

 あーもう! 迷ってても仕方がない、とにかく出来ることをしよう!!


「チコタン、ちょっと離れててね」


「は、はひいぃ」


 とにかく早く宇宙船を動かす!

 そしてミィシャンを助けにいく!

 大丈夫、きっとうまくいく。

 だって私にはダークマターっていう最強の力があるからね。


「よし! 頑張れ私!!」


 しっかり集中して、すぐに終わらせよう!

 えっと、円盤の裏側にメーター……これかな?

 じゃあここにダークマターを集めて、宇宙船が動くようにイメージして。


 集中……集中……。


「メータが上がっていきます、凄い勢いです!」


 上手くいってるみたい。

 この感じなら十数秒で満タンになりそう。


「ぎャッ!?」


 今の声、まさかミィシャン!?

 あ、集中が途切れちゃう。

 ミィシャンが気になる、でも宇宙船も動かさないといけないし……。


「あッ、うニャッ!?」


「ミィシャン!!」


 ダメだ、きっとミィシャンがピンチになってる。

 宇宙にいけなくなるかもしれないけど、それよりもミィシャンの方が大切だよ。

 友達のほうが大切、そんなの当たり前だ!

 待っててミィシャン、すぐ助けに──。


「ソーラはここにいてください!」


「チコタン!?」


「ミィシャンは私が助けにいきます、どこまで力になれるかは分かりませんが」


「そんなっ、危ないよ!」


「ですが、このまま放っておくわけにはいきません!」


「だったら私が──」


「ソーラは宇宙船を動かさないといけないでしょう?」


 それはっ……そうだけど。

 でもチコタンまで危険な目にあわせるなんて!


「ミィシャンはもう私の友達です。そして、友達を見捨ててはいけないと教えてくれたのはソーラです、だからここは私が頑張るのです!」


 チコタン……。


「やああぁっ! こっちです! 私が相手です!!」


「ギャオオォォッ!」


 チコタン!

 ミィシャン!


 私の大切な友達が、命を懸けて頑張ってくれてる。

 それなのに私はここでじっとしてるだけ?

 大切な友達を危険な目にあわせて、宇宙船を動かすことに集中するの?


「そんなのあり得ないでしょ!」


 私も一緒に戦う!

 二人は私が守る!

 必ず三人で宇宙にでる!

 誰も犠牲になんかしない!!


「待ってて二人とも、今いくから!!」

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