第30話 自由ハンター同盟

「それでぇ~、もう鬼ごっこは終わりですかぁ~?」

「……別に鬼ごっこをしてたわけじゃねえ。俺たちは自分たちの拠点に早く帰りたかっただけだ。だからもうついて来ないでくれ」

「ミーはぁ~、あなたに興味を持ちましたぁ~。お名前を聞かせてもらってもよろしいでしょうかぁ~?」


 全然こっちの話を聞いていない。今また逃げ出したところで、コイツが納得するまで追っかけてくるのは明白。なら何とか納得させて別れなければならない。


「《鑑定》スキルは持ってねえのか?」

「ん~? あ~そんなスキルありましたねぇ。あまり興味ないのでスキルは買ってませんよぉ~」


 おいおい、『ギフター』の醍醐味といえばスキル購入だぞ。それなのに利用してないのか?

 いや待て。コイツが嘘を言っている可能性だってある。そのまま信じるなバカ。


「そんなことよりぃ~、お名前を聞かせてくださいなぁ~」

「センパイ、名前くらいいいんじゃないですかぁ?」


 こら後輩。わざわざ相手を扇動してどうする。

 けどもし名乗らなかったら何をしてくるかも分からんし……ああ、面倒だな、ったく。


「…………鈴町太羽だ」


 本名を名乗ったのは、コイツが万が鑑定を持っていた時のためだ。

 嘘をついてバカにしたと逆切れされるのを回避したのである。


「わぁ~、素敵なお名前ですねぇ~。ではターくんって呼んでいいですかぁ~?」

「……勝手にしてくれ」

「クフフ、これでまた一人……お友達ができちゃいましたねぇ~」


 え? お友達になったの俺たち? ただ名前を名乗っただけなのに?


 だが美神を見ると、確かに嬉しそうに微笑んでいる。


「あ、ハイハイ! じゃあ私なんですけどぉ!」

「ううん、あなたはいい」

「な、何ですとぉ!?」


 いきなりフラれてしまう姫宮。


「だってぇ~、何かビッチっぽいですしぃ~」

「だ、誰がビッチですか誰が!? 私はこう見えてもちゃんとした処女ですからっ!」


 コイツ……子供たちの遊び場である公園で、何つーことを大声で宣言してるんだか。


「クフフ……処女ビッチ」

「ちょっ、ですからビッチなんかじゃありませんからぁ! センパイも何とか言ってください! コイツの処女はすぐに俺がもらうって!」

「はぁ……お前もう黙っててくれ」

「何でですかぁ!」


 だって話がややこしくなるし、いちいち相手するのが面倒だ。


「ターくんは、ミーとおんなじニオイしますぅ~。だからお友達になりたかったんですぅ~、クフフ」


 俺ってこんな怪しい奴と同じ匂いすんの? ちょっと……いや、結構ショックなんだが。

 するとそこへ数人の人の気配を感じ、思わず身構えてしまった。

 気配はこの公園へとやってきており、待っていると三人の男たちが公園に入ってきたのである。


「ようやく見つけましたよ」


 その中の一人、眼鏡をかけた人物が前に出て発言した。その言葉は美神へと向けられている。

 そして同時に、後ろにいる姫宮が「嘘……!」と驚いたような声音を出した。


「ん~? ああ、ユーくんですかぁ~。……何でここに?」

「何でって……お忘れですか? 今日の夜に、選定会議があるのを。あなたにも傘下してもらう約束でしたでしょう?」


 選定会議……?


「あ~…………忘れてましたぁ~」

「まったく。領土もさらに拡大しつつ、我々がここら一体を支配するのも時間の問題だというのに……ん? ところでそこの者たちは?」


 男の鋭い視線が俺を射抜く。何やら見定めているような眼差しに、少しイラっとしたものを感じる。


「ターくんですよぉ~。ミーの新しいお友達ぃ~」

「はぁ。またですか。いいですか、同志となる者たちの選別はこの俺に一任されているはずです。勝手なことをされては困りますよ――女王」


 !? ……今、何て言いやがった?


「はぅ~……ごめんなさいですぅ~」

「分かれば良いのです。ではさっさと戻りましょう。我ら『自由ハンター同盟』の拠点へ」


 これで完全に繋がった。

 今の女王という言葉と、男の『自由ハンター同盟』という言葉。

 つまりコイツらは、先輩が注目しているコミュニティの一つであり、そして美神がそのトップに立っている女王。


 まさかこんな危なそうな奴が女王だったとは……!


「じゃあターくん、それにオマケでビッチ。また会おうねぇ~」

「だからビッチって呼ぶなぁぁぁ!」


 最後に姫宮の叫び声がこだまする中、美神たちは静かに去って行った。


「もう! 誰がビッチなんですか! 失礼な人です! もうプンプンですよぉ!」


 そういうあざといところがビッチっぽいんだろうな。俺もそう思うし。


「けどまさかこんなところで会うとは思いませんでしたよぉ、帝原先輩に」

「! ……帝原? それって確か『自由ハンター同盟』を実質仕切ってる奴だよな?」

「ええ……って、そっか。センパイは帝原のこと知らないでしたね。あの眼鏡をかけてた人がそうですよぉ」


 俺を値踏みしてた奴か。そういえば同志になる連中の選別を任されてるとか言ってたな。それだけの大任だ。アイツが女王代行ってことか。

 それに《鑑定》を使ったにもかかわらず何も情報を引っ張り出せなかった。他の連中はある程度分かったというのに。


 つまりは俺や姫宮と一緒で《鑑定妨害》スキルを持っているということ。

 頭も切れるという話なので、持っていてもおかしくはない。少しでも相手に情報を与えない用意周到さが窺える。

 またあの人を値踏みするような視線。美神とベクトルは違うが、あまり親しくしたくない人種かもしれない。


 完璧超人だし? リア充だし? イケメンだし?


「ま、とにかく災難は去ったみてえだし、今のうちに先輩のとこへ……」


 そう口にした直後、タイミング良く先輩から連絡が入った。

 画面が出現し、〝CALL〟という文字がチカチカと点滅している。そして文字を押すと、画面から先輩の声が聞こえてきた。

 これは同じギルドメンバーだからこその連絡手段だ。


「はい、もしもし。どうしました先輩? もうすぐ帰りますよ?」

「っ……めだっ!」

「は? えと……何ですって?」

「だっ……めだっ! 今戻ってき……てはだめだっ!」

「「!?」」


 突然響いてきた先輩の声は、こちらに危機感を覚えさせるようなものだった。

 分かることは、先輩の状況が切羽詰まっていることと、ナニカが起きているということ。


「先輩! 先輩っ、聞こえますか!?」


 だがそれ以降、先輩からの返事が来ることはなかった。こちらからの連絡にも出てくれない。


「……な、何かマズそうな雰囲気でしたね、センパイ?」

「……ああ。冗談か何かだったらいいんだが……」


 たまに俺を悪戯でからかったりするので、そっちだとありがたい。もちろんあとで説教はするが。


「とにかく確認するためにも向かうしかないか。行くぞ、姫宮」

「りょ、了解しましたぁ!」


 俺たちは急いで大学の図書館へと走り出した。




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