第17話昼食は死袴とともに
ウェストミンスターチャイム。午前の授業が終わった。
「兄さん。昼食をとりましょう」
「ああ、それはいいんだが……」
俺は少し席を立って、女子に話しかけた。
「死袴さん?」
「……………………」
いそいそと室外に出ようとしたクラスメイトを呼び止める。
「何……?」
「昼食でも一緒にどうか?」
「謹んでごめんなさい……」
「まぁそう云わず」
ブレザーの首根っこを掴んで、引っ張った。
「アリス。行くぞ」
「はーい。でも何故死袴さん?」
クネリと首を傾げる。まぁたしかに普通なら声は掛けないよな。
「話しておきたいことがあり申しまして」
「ありえない……んですけど……」
「そう云わず。奢ってやるから」
「石焼き麻婆豆腐……」
「それで手を打とう」
そんなわけで、三人で学食に向かった。俺は五目焼きそば。アリスはユーリンチー定食。
「マジかぁ。兄貴がいるんじゃな~」
「とはいっても不健全じゃね?」
「ってーことはチャンスの目も」
いつも通りに噂されるアリスちゃんでした。嫌でも目立つ。御尊顔も御尊乳も。
三人で席に着いたのに、噂されるのは俺とアリスだけ。
「ヨハネ死すべし」と「アリス惚れるべし」のみ。死袴さんは白髪赤眼の異色症で顔立ちも整っているのに、俺とアリスの傍に居ながら認識されていない。透明人間とはまた違う。実際に見えないのなら、普通人は死袴さんを避けたりしない。知覚できても認識できない……が多分一番正解に近いのだろう。
「はむ……」
石焼き麻婆豆腐を食べながら、半眼でこちらを睨むルビーの目。ついでにエメラルドの目。たしかに超絶シスコンにとって新たなヒロインは嫉妬の対象か。
「それで……なんで拙に……気づけたの……?」
「あー、やっぱりそんな魔術を?」
「ソレに抵抗できる……って事は……そっちも……?」
「然程でも無いがな」
実際に魔術と呼べるような神秘性はない。別段秘匿はしてないも、自慢にもならないお家芸。治癒は確かに魔術なのかもしれない。
「二回ほどお世話になったろ?」
「?」
死袴さんが首を傾げた。
「あー……」
とアリス。コッチは既に思い出している。既知の範囲だ。どうやら俺の治癒は洗脳にも効くらしい。これは証明済み。
「なんか炎を操っていましたよね」
「……………………」
微妙な顔だった。暗示を掛けて忘れ去られた……とでも思っていたのだろう。苦虫を……な顔をしている。御尊顔が崩れ申しますぞ。
「えと……一応……特秘事項……なんですけど……」
「それは申し訳ないが、こちらも忘れるにはインパクトが強すぎないか?」
「魔術師……」
だから違うって。そんなご大層な物でも無い。
「単純に仲良くなっておきたいところだ」
スッと体感気温が冷えた。アリスの物だ。――そうなるよな、普通。しかして死袴さんがどういう立場なのかは把握しておく必要がある。それによってはアリスの呪詛にも関連能うだろう。その点を加味して、俺は死袴さんを引き留めたのだから。
御本人は石焼き麻婆豆腐をハムリ。美味そうだな。今度頼んで見るか。
「死袴さん?」
「えと……綾花で良い……。呼び捨てて……」
「では綾花」
うん。こっちがしっくりくる。
「ああいう手合いは多いのか?」
「ここ神鳴市では……ね……」
「で、お前が掣肘していると?」
「死袴の家は……代々、血桜様を祭っているから……」
「血桜?」
「えと……要するに……神様……」
なるほどな。
「とすると実はここってパワースポットか何かなのか?」
「素人なのは……わかった……」
分かられちゃったらしい。
「コッチでは霊地と呼ぶ。神鳴市は、死袴の一族が管理する霊地で、一種の結界」
結界と来たか。
「おかげで鬼が活発になるから……その掣肘は死袴の仕事……」
「なるほどな。それで鬼の発生に合わせて現われたわけだ」
「ていうか……鬼は初めて見る……?」
「いや、希に出会うな」
実際に結界に取り込まれたことは希にあった。頻繁に会っていたらそれこそお祓いが必要だろう。そうでなくとも人外は人外を引き寄せる。――あれ? スタンド使いか?
「えと……拙とは……昔から……?」
「高校入学が最初だ」
「よく生きてるね……」
「まっこと世にも奇妙な物語ですたい」
頷いて五目焼きそばをアグリ。
「何時もは……どうしてるの……?」
「結界から逃げ出して、家に帰る」
まず順当な手際。ていうか真正面からあんな怪物と相対して勝てるか。いや、もしかしたらリミッターを完全に解除すれば可能かも知れないが、試してみる気にもなれない。
「因果はある……みたいですね……」
「因果ね。その言葉で片付けられると俺の不幸は何なんだって話にもなるんだが」
「兄さん? とりあえず落ち着きましょう。あ。私の胸を揉みますか?」
それでどうやって落ち着けというのか。
「後でも揉みしだいてやるから、むしろアリスが落ち着け。で結局何なんだアレは?」
視線を綾花に振る。
「呪詛の具現です……」
「「呪詛……」」
俺ことヨハネと愛妹のアリスには他人事ではない。実際にアリスは心臓に呪詛を溜めている。やっぱり話して正解だったか。もしかしたら何かしらの解決の糸口になるかもしれない。少しの期待を込めて、綾花を見る。
「人の思念と……血桜様の呪詛が濃密になると……ああやって鬼が生まれるんです……」
「それを綾花は退治して回っているのか?」
「えと……そう相成りますね……」
「慈善事業ですか?」
アリスが身も蓋もないことを聞く。いや俺もちょっと思ったけども。
「ビジネス行為……ですよ……一応は……」
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