第2話【怒りの理由】

黒とも緑ともつかない板に描かれているのは、禍々しい髑髏のイラストと『柏虹輝抹殺計画』の文字。なるほど、俺はどうやら抹殺されてしまうらしい。


「ん?」


誕生を祝うどころか死を願われてしまった俺の目に留まったのは、髑髏イラストの隣り。

黒板の中央には、ポスター大の見慣れない掲示物が貼られていた。


「なんだそれ?」


やたらとデカい紙に、やたらとデカい文字が躍っている。

転倒したままの傾いた視界の中、首を傾けて行書体で書かれた文字を目で追う。


「えーっと、なんだ──〝2年H組 柏虹輝を生徒会庶務に任命する 生徒会長・橘緋彩″」


内容を読み上げると、教室内の空気が一層と乾いたものになった。


「これで分かったか?」

「ん? ああ、なんか柏ってのが生徒会に入るみたいだな」

 

落ち着いたトーンの冬馬の問いに、首を縦に振って答える。

にしても、生徒会役員の任命か。なんでまたこんな半端な時期に。


「虹輝はこれをどう思う? イタズラだと思うか?」

「いや、生徒会長の名前も入ってるし、それはないだろ」


他人の名前を使うなんてイタズラにしてはリスキーだし、なによりメリットがない。


「そうだよな、俺たちもそう思ってたんだ。で、この柏虹輝ってのは誰だ?」

「なに言ってんだよ冬馬、柏虹輝って言ったらそりゃ俺のことだろうが…………俺!?」


改めて自分の名前を口にして、俺はようやく事の次第を理解した。

そして瞬時に、俺に向けられた殺意の理由にも行き当たる。

……マズい、想定外の連続で肝心なところに気付くのが遅れてしまった。


「聞いてくれ、冬馬」

「なんだ?」

「これは、イタズラだ」


転倒したまま、できるだけ真剣な眼差しを冬馬に向ける。

俺の推測が正しければ、早急にこいつらを説得しなければ他ならぬ俺の身が危ない。


「イタズラ? それはないって、さっきお前が言ったんじゃないか」

「そ、それはそうだけど……待ってくれ。俺じゃない! 俺はなにもしてな──」

『ガタガタうるせえっ!』

「ひいぃっ!?」


弁明も虚しく、再び射出された凶弾が耳を掠めた。

……ダメだ、こいつら本気でヤる気だ。


「悪いな虹輝。俺たち、お前が悪いかどうかなんてホントどうでもいいんだ」


唯一動かせる足を使って芋虫のように這う俺の肩を掴み、冬馬はそう言った。

周りの男子たちも、それに同意するようにうんうん頷いている。


『妬ましい、それだけなんだよ』

『お前を地獄に叩き落とすためなら、俺たちはブタ箱系男子にだって成り下がる』

『平和のために死んでくれ』


「おい馬鹿止めろ! そろそろマジで当たるぞ!?」


『俺たちだって辛いんだ』

『お前のことは三歩歩くまで忘れねえよ』


「ただの鳥頭じゃねえか──って、おいおいおいおい!?」


言葉とは裏腹に、迷いなく武器を構える男子たち。

どこから調達したのか、各々トンファーやスタンガンらしきものまで手にしている。


『じゃあな、柏』

『来世でまた会おう』


「止めてくれえええええええぇぇぇぇぇぇぇ!」


混じりけのない殺気に当てられ、俺が目を堅く瞑ったその時────


「失礼します」


マジでヤられる5秒前。

聞き覚えのない声と共に、ガラガラとドアを開ける音が響いた。

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