第46話 用心し過ぎるぐらいで丁度良い
「私達はまだ子供ですからね。いくら従者を連れて行くといっても、用心し過ぎるくらいで丁度いいと思ったものですから」
シリルの言葉に同意するように、フレデリックも頷く。
「確かにそうですね。僕だってもし、ダンジョン内でリリィに何かあったらと考えると恐ろしいですから。これで安心できる材料が一つ増えました」
「まぁ、フレデリック様ったら。
「あ、すみません。そうですよね。僕は君のことになると、つい視野が狭くなってしまって……君のことしか考えられなくなるんだ」
リリアンヌに叱られてシュンとなりながらも、彼女への想いゆえだと訴える。
「もう、恥ずかしいですわ、フレデリック様。そういうことは二人っきりの時に言ってくださらないと……」
真剣な瞳で見つめられ、途端にぽぽぽっと頬を染めた彼女の可愛らしい姿に、フレデリックは嬉しそうに微笑んだ。
「フッ、貴女お望み通りにしますよ、リリィ」
「フレデリック様……」
……まだまだ説明の途中なのだが、 互いに視線を絡ませ、うっとりと二人の世界に入ってしまった。
最初は政略で決められた婚約だったはずなのだが、相変わらず仲のいいことだ。恋人同士にしか見えない。
間近で見せつけられると、婚約者との中が二人ほどは良くないシリルとヴィヴィアンにとってはちょっと、いたたまれないのだけれど。
「んんっ。えっと、シリル様? 発動には魔力を流すだけで、他には何もしなくていいんですのね?」
「え? あ、う、うん。そうなんだっ」
動揺を隠しきれない様子だったシリルも、軌道修正しようと頑張るヴィヴィアンの言葉に、すぐに乗ってきた。
「ただ、ダンジョン内は声が響くからね、伝える時には周りにも気をつけて欲しい」
魔道具はどれも高価なので、使っているなと勘づかれると他の冒険者に狙われる危険度は上がる。
それにダンジョン内では犯罪が隠蔽しやすいという厄介な問題もあった。
何故かというと殺害されて一定時間が経つと死体がダンジョンに吸収されてしまうからだ。
つまり、地上と比べて殺害の証拠がほぼ残らないという、犯罪者にとって都合のいい環境なのである。
その為、冒険者の中には同業者を標的にしている悪質な層が一定数いるらしく、特に駆け出しの冒険者は危ない。
「そんな奴らに目をつけられてはたまらないからね」
「分かりましたわ。十分、気を付けます」
シリルの忠告に、ヴィヴィアン達三人は使用する際には周りにも注意しようと決心して、頷きあったのだった。
「ところでダンジョンの中で通信出来る距離って、どのくらいになるのでしょうか?」
フレデリックが疑問に思ったことを尋ねると、当然その答えもシリルは持っていた。
「同じダンジョン内でなら制限がないそうです。つまり、階層が違っても通信可能ということですね」
「それはいい。便利ですねっ」
「うん。私達は途中から離れて行動するからね」
今回、彼らはダンジョン内で二組に分かれて探索する予定だ。
シリルとヴィヴィアン、フレデリックとリリアンヌの、婚約者同士の組み合わせである。
そこにそれぞれ二人ずつ連れてきている従者が付くので、一組で六人のパーティーを作って行動することになる。ヴィヴィアンはいつものようにセレスとアリス、双子の戦闘メイドを連れてきた。
ダンジョン探索には、多すぎず少なすぎず丁度いい人数だろう。
彼らには、幸運値を上げる魔物を探すという明確な目的があるので、離れていても連絡を取れる手段があると都合が良い。
「ただ、別々のダンジョンにいる時には流石に通信できないそうだ。まぁ、これは別に覚え無くてもいいけどね」
「分かりましたわ、シリル様」
同じダンジョン内であればどこでも通じるのであれば、それで十分だった。
ちなみに距離が遠くなればなるほど使用魔力は増加するそうだが、ヴィヴィアン達のような貴族で内包魔力の多い者なら気にせず使える量だということも教えてもらった。
「では皆、好きな物を選んでくれるかい?」
「ええ、シリル様。でも、これだけあると迷ってしまいますわねぇ、ヴィヴィアン様?」
「そうですわね、リリアンヌ様。どれも素敵なんですもの。目移りしてしまいますわ」
宝石箱を覗き込んだ女の子二人は、どのアクセサリーにするか中々決められないようだ。
「う~ん。僕はどうしようかな……?」
フレデリックも迷っていたようだが、ふと何かを閃いたようで顔を上げた。
「リリィはなにか、希望はありますか?」
「特には……。ただ、できればフレデリック様と同じものがいいのですけれど、同じパーティー内ではお揃いにしない方がいいのでしょう? ですので中々決められなくて」
「お揃い、ですか。じゃあ、これなんかいいんじゃないでしょうか?」
そう言うと、彼は宝石箱の中から二つのアクセサリーを選んで手に取った。
「つける場所は違いますが、これならペアみたいに見えませんか」
「あら、これは……」
彼が差し出したものを見た瞬間、リリアンヌの顔がパアっと明るくなった。
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