第6話 勇者召喚(Side 白峰)

「勇者の皆様、私の言葉がお分かりになりますか? 身体のどこかに不調はございませんでしょうか?」


 涼やかな少女の声が室内に反響した。

 光の奔流のあまりの眩しさに目を閉じていた生徒たちがその声に促されるように目を開ける。


 目の慣れた彼らの視界に映ったのは、体育館ほどの広さの石造りの部屋とその中央にバラバラに座っているクラスメートたち。

 さらに、扉と反対側にある祭壇を背にした神官風の男女が数人、そして部屋の中央に集められた自分たちを取り囲むよう立っている数十人の騎士たちであった。


 生徒たちの間に緊張と不安が湧き上がる。


「どこだよ、ここ」


 白峰の取り巻きの一人、一際体格のいい生徒——、出雲零次いずもれいじが周囲の兵士たちを見て緊張した様子で独り言をつぶやいた。

 出雲の独り言に白峰悠馬が反応する。


「落ち着けよ、出雲いずも。自称女神が勇者召喚と言ってたから、差し詰め『召喚の間』というところだろ」


「お、おう。でも、雰囲気がヤバくないか?」


「武装した騎士を配置してるってことは、召喚する側もビビッてるってことだ」


 出雲は周囲の武装した騎士たちの迫力に気圧けおされて声をひそめたが、白峰は特段気にする様子を見せていない。

 その白峰の反応に出雲が幾分か落ち着きを取り戻す。


「そ、そうだよな」


「俺たちが必要で呼んだんだ、手荒な扱いしねえよ。ここはどっしりと構えて相手の出方をみようぜ」


 白峰自身、不安と恐怖で先程から自分の鼓動がうるさいくらいに耳に響いていたが、それを気取られないよう敢えて強気のセリフを口にした。

 その効果は彼自身だけでなく、一緒に召喚された生徒たちにも伝播する。


「白峰の言う通りだよな」


「女神様も勇者召喚っていってたから大丈夫、よね……」


 生徒たちがささやく中、祭壇の方向から美しい声音こわねが語り掛けた。


「言葉が通じるようですね。安心いたしました」


 それは最初に彼らの耳に届いた声。


 生徒たちの視線が一斉に声の主に向けられる。

 そこには神官風の者たちに交じって、冠を頂いた少女が穏やかな笑みを浮かべていた。


「我らが呼びかけにお応えくださりました勇者様方、心より感謝申し上げます。私はリヒテンベルク帝国の第一王女、ビルギット・リヒテンベルク。我が国は皆様を歓迎いたします」


 ビルギット王女が召喚された生徒たちの方へ歩きだすと、彼女の周囲にいた神官や騎士たちも一緒に動きだした。

 ただ一人、ビルギット王女の足元で横たわっていた一際豪奢ひときわごうしゃな神官服をまとった少女をのぞいて。


 白峰は近付くビルギット王女よりも、石の床に横たわったまま置き去りにされた少女に意識が向いた。

 その豪奢な神官服とは不釣り合いな、扱いのぞんざいさに疑問が湧き上がる。


(あの首輪もそうだ。嫌な感じしかしねえな)


 横たわる少女の首には異世界ファンタジー漫画に出てくる隷属の首輪を連想させる、みすぼらしい金属の首輪がされていた。

 ビルギット王女の声が召喚の間に響く。


「勇者の皆様、『ステータス』と念じてください。皆様が女神・カーミラ様よりたまわったスキルが表示されるはずです」


 ビルギット王女の言葉に従って、『ステータス』と念じた生徒数人の声が次々と上がる。


「うわ、本当にでた!」


「さっき貰ったスキルが表示されてる」


「あたしたち、魔法が使えるってこと?」


 そこかしこで驚きと歓喜がない交ぜとなった声が次々と上がる中、白峰も己のステータスを半透明のボードに映し出す。

 己のステータスを確認する白峰に出雲の疑問のつぶやきが聞こえた。


「あれ? スキルが三つもあるぞ」


「出雲、お前のステータスを教えろよ」


 白峰が聞いた。


「おう」


【名 前】 出雲零次

【H P】 287

【M P】 273

【スキル】

絶対零度   1/10

土魔法    1/10

火魔法    1/10


「何で三つなんだろうな?」


 その疑問は背後の会話により解消された。


「身体強化と水魔法ってのがある」


「あ、俺も二つ目に水魔法があった」


「俺は土魔法だ」


 その会話を聞いていた白峰と出雲が驚いたように顔を見合わせる。


「もしかして白峰も水魔法とかもっているのか?」


 出雲の質問に小さくうなずくと、女神から貰ったであろうスキルの他に、土魔法と水魔法と火魔法、風魔法が半透明のボードに表示されていることを告げた。


「――――多分だが、土魔法、水魔法、火魔法、風魔法はスキルの種とは別に標準で付いてくるスキルなんじゃねえか?」


 白峰が口元を綻ばせる。

 半透明のボードに映し出された四人分のスキルに白峰が胸を躍らせていると、ビルギット王女の声が響いた。


「いま、勇者様方がご覧になられている半透明のボードを我々は『ステータススボード』と呼んでいます。このステータスボードは本人にしか見ることができません。ですので、勇者様方には女神・カーミラ様より賜ったスキルを我々に教えて頂きたいので」


 他者が己のステータスを知る術がないことに安堵した白峰は、こっそりと『鑑定』のスキルを試すことにした。

 意識を『鑑定』に集中すると周囲の生徒や神官、騎士たちの前に半透明のボードが浮かび上がる。


 そこには名前とHP、MP、スキルが表示されていた。

 一緒に召喚された生徒たちと、ビルギット王女や神官、騎士たちのステータスとスキルを次々と確認していく。


 対して勇者として召喚されたクラスメートたちはHPとMPのどちらも200を超えており、なかには300を超える数字を持つ者もいた。


(なるほど、これに所持スキルの差が加わるんなら、勇者だと持ち上げる価値もあるってことか)


 白峰が己のステータスボードに視線を戻した。

 圧倒的な差。


(いいねー。HPとMPのどっちも600超えているのは俺だけじゃねえか)


【名 前】 白峰悠馬

【H P】 623

【M P】 608

【スキル】

結界魔法   1/10

鑑定     1/10

増幅     1/10

身体強化   1/10

土魔法    1/10

水魔法    1/10

火魔法    1/10

風魔法    1/10


 HPとMPも明らかに異常な数字であったが、所有するスキルの数に至っては、クラスメートたちのそれとは歴然とした差があった。眼前のステータスボードに映し出されたスキル群に白峰のボルテージが一気に上がる。


「ははは」


 思わず漏れた笑い声に、一緒に転移してきた生徒たちの視線が白峰に注がれた。


「何、見てんだ!」


 凄む白峰に視線を向けていた者たちが一斉に目を逸らした。 

 気まずい雰囲気に堪りかねた男子生徒が、


「あれ? 宵闇と不知火は?」


 図南と拓光がいないことに首を傾げた。

 すると女生徒も声を上げる。


「そう言えば、紗良もいないよ」

 

 三人がスキルの種を掴めなかったことと、白峰が三人のスキルの種を横取りしたことに関連性があるのだろうと、生徒たちの誰もが思った。

 だがそれを口にする生徒はいない。


 それでも彼ら間で意味ありげな視線がかわされ、先程よりもさらに気まずい雰囲気が辺りを覆った。


 だが、ビルギット王女の穏やかな声がこの気まずい雰囲気に終止符をうつ。


「異世界への召喚で勇者様方が混乱されているのはよく分かります。落ち着かれまいたら改めて詳しいお話をさせて頂きます。先ずは賜ったスキルをご教示くださいませ」




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        あとがき

■■■■■■■■■■■■■■■ 青山 有


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