偉大なるアラ

 アラは社史編纂室に戻り三人は仮眠室のリビングルームに、


「コトリ、間違いないね」

「そやな、意識分離技術は不老不死とは関係なく広がったでエエと思う」

「これで十万人の説明が出来るわ」

「どういうことですか」

「ビール飲む」


 コトリ副社長は缶ビールとおつまみを抱えて戻ってきて、


「元は長距離宇宙航海技術でエエと思う」

「それってアラの言ってたコールド・スリープと組み合わせるものですか」

「そうや」


 エランの宇宙開発技術は先端技術でなくなってたと、アラだけでなくユダも言ってた。そうなると、


「再発見ですか?」

「たぶんそうや。帰還した宇宙飛行士の能力が飛躍的に上がっているのに誰かが目を付けたんやと思う」

「でもあれはカプセルに意識を移して、それを自分の体に戻す技術だったはず」

「それで神が発生した。お手軽に天才を作れる技術としてエランに広がったんやと思う」


 そっか、一度で良いんだ。意識を分離してカプセルに移し、そこから元に戻せば神に成れるなら人気が出ない方が不思議だ。


「でも副産物の覇権欲や猜疑心のデメリットはどうだったんのでしょう」

「おそらくやけど最初の頃は、覇権欲は向上心。猜疑心は注意力と評価された気がする」


 なるほど。考えようによっては向上心の行き着くところが覇権欲とも言えるし、注意力の行き着くところが猜疑心とも言えないこともありません。


「エランに神が量産されて問題が深刻化したんやろ」

「かつて地球の神が争ったようにエランの神も」

「そうならへん方が不思議やろ」


 社会的混乱の原因が意識分離技術による誕生した神によるものの判断され、その技術の封鎖と神の取締が大規模に行われたぐらいでしょうか。


「その時に探査装置が出来たんやと思う。アラでも神を見る力がなかったから」

「その探査装置を使って大規模な神狩りが行われたのが十万人ですか?」

「そう見るのが順当やろ。ユッキー、コトリの分のビールもお願い」

「ミサキもお願いします」


 ビールを抱えてユッキー社長は戻って来たので、


「でも人に神が捕まえられるでしょうか」

「結果として可能だったと見るしかないわ。その証拠がアラで良い気がする」


 そうか、神と言ってもユッキー社長やコトリ副社長、ユダみたいなクラスになると人の手ではどうにもできないけど、たとえばミサキなら捕まるものね。アラがエラン最強なら他はもっと弱いはずだから人の手でも十分可能だったのだろう。


「神の処分にも困ったんやろ」

「どういうことですか」

「神は神にしか殺せないってことよ」

「でも意識移動が出来ないのであれば人ごと殺せば」

「エランの死刑禁止は絶対禁忌みたいなものだよ」


 死刑禁止の影響で意識の死刑さえ出来なかったと見ています。ですから処分に困って地球に星流しにしたぐらいです。しかし意識分離技術は広範囲に拡散しており一片の通知ぐらいじゃ根絶には程遠く、狩っても、狩っても新たな神が登場する状況になったとお二人は考えています。


「それが千年戦争」

「そう、複数いるから神は争うから、唯一人になれば、これを抑え込めるってアラは考えたのだと思うよ。アラはエランの他の神を根こそぎ倒し、意識分離装置を破壊し、その技術を封じ込めたんだ」

「それだけじゃないと思うよ。アラは他者への意識移動を試み成功したんだと見て良いわ」


 千年戦争をアラが勝ち抜けたのは記憶の継承による永遠の生命だったのかも。


「その状態を実現させ、維持するには独裁と強権が必要だったんだと思うよ。ちょっとでも手を緩めると意識分離装置を密造し、新たな神を作る連中が後を絶たなかったんじゃないかなぁ」

「そうね、強力な武器の技術を封じ込んだのもその一環と見て良いわ。覇権欲の強い神は、そういう武器を使うのに躊躇ないもの」


 千年戦争はまさに神々の争いだったんだ。


「でもどうやって他の神を殺したのですか」

「全部アラが殺したのよ。だからアラはエランの唯一人の神になり怖れられたぐらいかな」

「でも不評だったのでしょう」

「最後はね。でもずっと不評だったわけじゃないよ。アラはアラルガルとも呼ばれてるでしょ」

「ル・ガルはシュメール語で王で、驕ったアラが王を僭称したからじゃ・・・」

「現代エラン語でもル・ガルは王を指すこともあるけど、もともとは『ル』が人で、『ガル』は大きいなの。アラはね、神を根絶し長い戦乱からエランに平和をもたらした時に、


『偉大なるアラ』


 こう呼ばれていたで良いと思うわ。不評の塊だけで、九千年も政権を維持できるわけないじゃない」


 ミサキの中でアラのイメージが変わっていきます。強権の独裁者って言葉のイメージから漠然とヒトラーを思い浮かべていましたが、むしろカエサルのイメージに近いんじゃないかって。

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