会談後

 エランの代表団が宇宙船に帰った後がそりゃ大変。誰だってユッキー社長と、エラン代表団がなにを話していたか知りたくて仕方がないからです。ユッキー社長は、


『相手はエランという名の惑星政府である』

『目的は彗星騒ぎの時の宇宙船で地球に来た国家的重犯罪者の捜索逮捕であった』

『捜査の結果、重犯罪者は既に死亡しているのが確認された』

『この際、地球と友好条約を結ぶ意図がある』


 この程度で話をまとめています。とは言っても五時間ぐらい質問責めでした。ユッキー社長はアラの健在を伏せてます。おそらく出せば政府エランに引き渡すべきかどうかで大問題になるからでしょう。さて、引き続き交渉が必要になりますが、


「総理、これでわたしの役目は十分に果たせたかと存じます。本業に戻らせて頂きます」


 あれっと思いましたが、これで慌てたのが下山総理の方で。


「小山社長、エラン代表と話が出来るのはあなただけだ、引き続き通訳として御協力頂きたい」

「私は小さいとはいえクレイエールの社長で、立花は副社長、香坂は常務です。わたしたちはクレイエール・グループ十万人の生活を背負っております。これ以上の協力は業務に支障が生じます」


 クレイエールは彗星騒ぎのドサクサに乗じて行った多数どころでない企業買収により巨大グループに成長し、企業規模としては、世界でも有数のものに膨れ上がっています。この辺は綾瀬会長が担当しているのでミサキも詳しくはありませんが、政治献金を通しての与党への影響力も大きく、総理とて頭ごなしに命令しにくいところです。


「それは理解できるが、事は重大だ。どういう条件なら協力してくれるか」


 そこからユッキー社長は渋る渋る。総理はあれこれ宥めまくった末に、ユッキー社長がポロリと、


「とにかく長引くと困ります。全権代表でわたしに任せて頂けるのなら考慮の余地もありますが、そんなことは無理でしょうし・・・」


 困り果てていた総理はこれに飛び乗り、


「小山社長に全権を委ねたいが、これは各国代表の了承が必要だ」


 この時点で既に総理の記者会見は行われており、それこそ世界中が蜂の巣を突いたような騒ぎなっています。アメリカ大統領やロシア大統領、さらには中国国家主席、EU代表・・・世界中のVIPが東京に集まりこの問題の討議が行われます。

 下山総理のユッキー社長を全権代表にする案は、これまた猛烈に渋られました。そりゃ、そうで世界有数とはいえ、民間人にそれだけの交渉を任せられるかってところです。ただ現実的な問題点はコミュニケーションです。エランの自動通訳機の程度の低さでは、誰も交渉に当たれないってところです。

 もちろん各国も手をこまねいていたわけでなく、エラン語の解析に全力を挙げています。ユッキー社長が話すことが可能で、同席していたコトリ副社長やミサキも理解していることがわかったからです。しかし材料は会談の録音記録しかなく、


『シュメール語ないし、古エラム語との類似性は認めるが、それ以上は不明』


 ユッキー社長とエラン代表の会談も後半になるほど早くなり、現代エラン語に近くなっており、そこの部分になると比較対象がなくてお手上げで、とても話せるレベルには程遠いってところでしょうか。ユッキー社長には各国の指導者からの通訳依頼の話が次々に来ます。それでも、


『ミスター・プレジデント。わたしは日本の自由な市民であり、既に十分な協力を行っております。引き続きの協力への条件は下山総理にお伝えしております』


 ユッキー社長を全権代表にせざるを得ないの空気が醸成されたのですが、全権と言いながらあれこれ制限条件を付けようとしています。これについても、様々なスッタモンダがありましたが、ほぼユッキー社長の望む条件になりつつあるようです。そんな騒ぎの中で料亭密談です。


「エランの目的は本当に友好と親善なのでしょうか」

「地球侵略じゃないわ」

「でも十隻もいますよ」

「ちがうわよ、十隻しかいないのに神戸に降りてきてどうするの」


 たしかに。手始めに日本を侵略するとしても東京の羽田なりに着陸するよね。


「それにあの感じなら一隻に十人程度しか乗っていない気がする」

「でも超兵器を使ったら」

「侵略するつもりなら、とっくにドンパチやってるわよ」


 ミサキも空港会談のエラン代表の態度に侵略の意図は乏しそうに感じます。あんな精度の低い通訳機を使ってまでコンタクトを取ろうとしてたぐらいですから、


「では目的は」

「やっぱり女じゃない♪」

「そんなぁ!」

「あらゆる可能性を考慮していくのが交渉よ。女狩りの可能性も頭に置いとくものよ。でもそれよりも現実的な要求があると思う」

「なんですか?」

「燃料よ。アラの話でもエランでの燃料調達は難しくなってるとしてた。この辺はどんな燃料を欲しがるかは、これからの話になるわ」

「でも、それじゃ、残りの九隻の目的は?」

「次の会談でわかるんじゃない。それより気になることがあるの。エラン代表は神じゃないのよ」


 どういうこと。


「それは地球まで近かったからじゃないですか」

「でもアラはカプセルを使ってる」


 そうだった。


「あえて使わなかったのか、それとも・・・」

「それともなんですか」

「使えない何かの事情があるのか。この辺も次の会談でわかるかもしれない」


 使えないとしたらアラが地球に持ち込んだのが最後の装置だったとか。


「それに関連するけど、地球に星流しされた十万人は多すぎるのよね」

「どういうことですか」

「十万人規模の意識分離なんてエランでも簡単に出来なかったと思うのよ」


 たしかに数が膨大過ぎます。


「不老不死願望から意識と肉体の分離技術と、分離した意識の他の肉体への移動技術はユダのいうとおり出来ていたで良いと思うわ」

「でも限定利用って話でしたが・・・」

「限定利用になる過程があったと考えるのが妥当よ」


 そっか、ユダの話でも移される宿主の人権問題の話があったわ。


「ある時期に意識分離技術が広く行われた結果が十万人。いやもっといたかもしれない」

「やはり能力発生のカギは意識分離」

「もう、そう見て良さそうね。その十万人は神となり社会問題を次々と引き起こした」

「じゃあ、反乱とか、クーデターはなかったとか」

「それはこれから聞きたいところだけど、地球の神のような状態になった可能性はあると思う」


 地球の武神はひたすら覇権を目指し、神同士の仲はひたすら悪かったってやつね。


「ああなるのも、神の能力を持つ引き替えかもしれない。ここでだけど、もしそうならば神同士は協力しないのよ。さらにエランでは神の移動に装置が必要だった」

「神の移動が装置依存だとすれば・・・」

「おそらく装置がなければ人とともに神は死ぬ、ないしはそうだと信じ込んでたぐらいかな。アラはその点を巧妙に利用して神を支配下に置いて行った可能性はあるわ」

「それってユダの話のアラの側近も神だったって話に・・・」

「そういう時期もあったのかもしれない。ユダだって見てた時間は短いからね」

「だとすると、アラは最終的にやはり神を危険とみなしカプセルに詰め込んだ」

「技術的にあったのだと思うわ。アラの宇宙旅行での意識分離技術の話は信じても良さそうだから」


 ここで一つ疑問が、


「ミサキには見えませんが、アラの力はそんなに大きくなさそうですが」

「あれでもエランでは巨大だったと見て良い気がする。ダントツだったかもしれない」

「でも社長や副社長に較べると」

「回り回ってユダの放射線防護シールド不良説になるのか、地球にそうさせる要因があったのかは検証不能だわ」


 たしかに結果しかないものね。ユッキー社長は地球全権大使に正式に任命されると宇宙船との交渉に入られました。その点はさすがにエランと思ったのですが、あらゆるタイプの無線でも通信可能のようで、最終的にはスマホからやってました。


「ミサキちゃん、スマホで連絡取れるのは便利だけど、料金はどうなってるのかしら」


 そういう問題ではないとも思いましたが、


「ああ、そうだったメイルもラインも使えないんだ」


 当たり前でしょうが。だいたいエラン文字なんて入ってる訳ないじゃないですか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る