着陸前夜

 空港での夕食も終り夜になりましたが、とにかく部屋から出ることもできません。部屋の前には婦人警官が貼り付いているからです。御手洗に行くのも御手洗の中まで付いてくる状態ですから、監禁状態みたいなものです。ミサキは緊張と部屋から出られないストレスでグロッキー気味です。


「社長、明日はどうなるのでしょう」

「連れ去られて宇宙旅行に御案内かも」

「そんなぁ」

「まあ、ないよ。話はアラについてだよ」

「それはミサキにもわかるのですが、それだったらアラを引き渡すだけで話が済む気もします」

「そこのところの出方の予測が難しいところよ」


 ここでコトリ副社長が、


「ユッキー、あの反応をどう見る」

「コトリの聞きだした情報も併せて可能性は高いと見ているわ」


 なんの事かわからなかったのですが、


「たしかにアラをクレイエールに招き寄せる段取りはしたけど、アラがクレイエールに来た本当の理由があるのよ。というか、アラが来たからにはそれが狙いだったと見て良いわ」

「なんですか」

「アラはね、死にたくなかったのよ」

「まったく、一万年も生きてて、まだ生きたりないのかねぇ」


 お二人が注目していたのはエランでの宿主の乗り移り方法です。もう少し言えば、肉体と精神の分離法も含めてですが、すべて装置に依っていたと見ているようです。アラは地球までそれを運び込み、さらにフィルに乗り移るのは成功していますが、


「そういえば故障したって」

「そうなのよ」


 宿主を乗り移れない場合は宿主とともに死ぬ可能性があります。そこでアラが耳にした、いや耳にわざと吹き込んだのが、クレイエールには一万年前の流刑囚の生き残りがいるって話だったようです。


「じゃあ、それを求めて神戸本社まで」

「そういうこと。流刑囚の生き残りがいるってことは、装置も動いているって判断よ」

「えっ、じゃあ、まさか」

「可能性はある」


 まずアラの存在によりエランの神は記憶を継承する地球の神に近かったのは確認できます。問題はアラ以外にエランに神がいたかどうかです。


「前にユダは独裁者の側近も神だったとしてたけど、そうでなかったで良いと思う」

「ユダがウソを吐いた」

「それは可哀想かも。ユダ程度の地位では知りようもなかったんじゃない」


 お二人の推理はアラの側近は意識改造機にかけられた者たちではないかとしていました。


「だってそうじゃない、記憶を継承する神が他に入れば、いずれ自分の地位を脅かすと見れるじゃない」

「でも反乱が起ったり、地位を脅かそうとする者の粛清があったりとかは」

「どうもね、意識改造機の性能は限界があったみたい。非常に効果的な者もいれば、ほとんど効果が無い者もいたそうなのよ。それでね、意識改造の効果が高いほど人としての能力は落ちるみたいだったの」

「それって、忠誠度の高い無能と、自由意志を持った有能者に別れてしまうってことですか」

「話はそこまで単純じゃないみたいだけど、だいたいそんな感じ。アラもある時期までは有能者を使いこなしていたみたいだけど、途中から無能者だけの政権運用になったで良さそう」


 そうなると、


「ではアラだけが神だった」

「そう考えるのが今のところ妥当かもね」

「意識分離機は」

「地球に送った流刑囚に使ったのが最後みたい」

「どうしてですか」


 コトリ副社長は意識と肉体を分離させる行為にカギがあると考えています。


「その反乱軍への処刑だけどエランでの死刑廃止はとにかく重いのよ。だからまず意識改造機にかけられたと考えてる。そこでの意識改造が不十分な者の意識を分離を行いカプセルに詰め込んだぐらいかな」


 なんとなくわかる話だけど、


「ここでのポイントはどうして地球に送ったかよ」

「どういうことですか」

「エランに置いておくには危険だったからじゃない」

「えっ」


 ここでユッキー社長が、


「話をシンプルにするわね。あの反乱の規模はとにかく大きくて、アラが辛うじて勝ったぐらいの理解で良いわ。アラは二度と反乱が起きないように見せしめ的な処刑を行ったの。でもね、死刑は禁忌的禁止よね、そうなると次は終身刑ぐらいになるのだけど、対象者が多すぎたと考えてる」


 ちょっと話が見えてきました。


「それって収容場所がないから終身刑の代わりに意識分離を施したってことですか」

「そうすればスペースいらないからね」

「でも意識だけのカプセルがどうして危険なのですか」

「予測が付かなかったからで良いと思ってる」

「ま、まさか、神の能力の発生は意識分離によって生じたとか」


 ユッキー社長はペットボトルのお茶を飲みながら、


「それは明日確認できるかもしれない。ただね」

「ただ、なんですか」

「気になっているのは、どうやってわたしとコトリを見つけたのかよ」


 それはそうだ。ここでコトリ部長が、


「可能性として一つしかないと思ってる。連中は神を見つける装置を持ってるってこと」

「どうしてですか」

「だからアラはエランから逃げ出さざるを得なくなったってこと」


 そうだった、アラは神だった。装置さえ使えば誰にでも乗り移れるんだった。アラを捕まえるためには、アラの神を見つけ出さないといけないんだ。


「じゃあユダも見つかってるとか」

「だから明日の会見場にユダがいても驚かない」


 食事や服装に熱中しているように見えたお二人ですが、明日の会見の展開についてここまで読んでるんだ。


「でも明日にならないとわかんないよ。全部推測だから。今までのお話は一つの可能性に過ぎないの」

「そうよ、三人ともとっ捕まえられて宇宙旅行に御招待だってあるんだから」

「ワクワク」

「ドキドキ」


 どうしてこれだけ危うい状況なのに、これだけリラックス出来るか、毎度のことながら感心します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る