第5話

 翌朝の朝食は、野菜を中心とした献立であった。


「お父様」

「どうかしたのかい?」

「あの……、昨日のレインハルト公爵家との縁談の話ですが」


 私の言葉を聞いたお父様の表情に翳りが浮かぶ。

 

「シャルロットは、昨日の話を聞いてどう思うんだい?」

「私は……、よくわかりません」

「そうか」

「あの、お父様。婚約や縁談は一応受けておいて、あとで取り止めすることなどは出来ないのですか?」

「それは無理だ。相手の方が貴族としての位が高い。相手の顔を立てつつ正当に破棄できる理由が無いと難しい」

「そうなのですか」


 時間稼ぎとしてレインハルト公爵家からの縁談を婚約という形で表面上受け入れるだけならと思っていたけど無理みたい。


「シャルロット。私が何とかしてみるから、そこまで気に病むことはないよ?」

「分かりました。そういえば、最近、よく薬師ギルドの方が訪ねて来られるのですが」

「なるほど……。アリエル、どのような話だったのだ?」

「町に居た薬師の方が他領地の町に移住してしまったそうです。現在、傷薬を含めた納入が滞っているそうなのです」

「なるほど……」

「はい。エルトール伯爵領は経営が上手くいっていないと噂が流れていて手に職を持つ人材が流出しているようです」


 アリエルさんの言葉に、お父様が無言になる。

 なるほど、確かに日本でも過疎化した町や村には医者などは来なくなるし、インフラ設置も遅れる。

 それと同じことが起きているのかも知れない。


「あ、あの! お父様!」

「なんだい?」


 私は、昨日の夜に現れた猫に教えてもらった薬の作り方を教えてあげるという言葉を思い出しながら言葉を紡ぐ。


「私、お母様が薬を作っているのを見ていました! 薬の原材料となる野草も見分けることも出来ますので、私に薬作りを任せてもらえませんか?」

「そうなのか?」

「はい!」

「そうか。どのくらいまでの薬なら作れるんだ?」

「えっと……、色んな薬なら……」


 何の薬の作り方を教えてくれるとは教えてもらっていないけど、何とかなるはず。


「そうか、では一度、作って見てはくれないか?」


 私はお父様の言葉に頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る