第84話 夜な夜なハルカ


 マユリ、ほむらの部屋



「お、お姉さま。どど、どうしますか?このまま朝までおしゃべりします?」

 ほむらは緊張のあまり、上手く口が回らない。二人は今、自分の寝るベッドに腰を下ろし、向かい合っていた。

「う~ん。ごめんね、ほむらちゃん。ボク、とても眠いんだ。だから横になりながら少しおしゃべりしよ。もしかしたらボクそのまま寝ちゃうかも知れないけど。」

 マユリは眠い目を擦りながら言う。先程歯磨きとトイレは済ませた。もうマユリとしては、いつでも寝る準備が出来ているのだ。

「じゃあそうしましょう。眠かったらいつでも寝てください。」

 ほむらとしてはいっぱいおしゃべりしたいところだが、それよりもマユリの寝顔を間近で見てみたいという欲求の方が勝ってしまっていた。

 この部屋においては、その寝顔を見れるのはほむらだけ。ほむらだけのもの。独占欲がほむらを更に興奮させる。

 早速横ベッドの上で横になる二人。

 ほむらは自然な感じでチラリと隣のベッドに目を移した。そこには、神秘的なほど美しい女性がいる。


 うわ~、ほんっとにステキ🖤


 そんな寝巻き姿のマユリが隣のベッドにいると思うと、興奮よりも、今度は緊張で心臓がバクバクと跳ね上がる。


 ううっ・・・お姉さまに襲われたい!


 だが、それは叶わないだろう。今のマユリはウトウトしていて、眠るのを我慢するのがやっと。おしゃべりですら、そんなに長い時間は出来ないだろう。

 ・・・もちろん眠くなくても襲わないと思うけどね。

「ほむらちゃん、学校楽しい?」

「はい。でも、お姉さまといる方がもっと楽しいし、心落ち着きます。」

 心臓が破裂しそうになってるくせに、よく言えたものだ。

「そっか。ボクもほむらちゃん達皆と一緒にいると楽しいよ。今日だって、いっぱい笑ったし、みんなで料理もしたし、とっても楽しかった。」

 マユリは正直な気持ちを伝えた。

「でも・・・ハルカ先輩といるときのお姉さまは、ここにいる誰といるよりも楽しそうです。」

「まあ・・・そりゃそう見えるかもね・・・だって・・・ハルカは・・・すぅ・・・」

 気になるところで言葉を切り、マユリは眠りに落ちた。ほむらは、少し気持ちがモヤモヤしたがそれも一瞬のこと。何故ならマユリの寝顔が目の前に飛び込んできたからだ。


 あわわわわっ・・・


 これは卑怯ですぅ・・・


 尊すぎます~~🖤


 無防備に眠るマユリ。しかしほむらは変な気を起こさない。いや、起こせない。ほむらを信頼し、こんなに穏やかな顔で安心して眠っているマユリに、一体何か出来るというのだろう。

 ほむらは仕方なく、自分のベッドで横になりマユリの寝顔を見ながら一晩過ごすことに決めたのだった。


 

 ミカ、サラの部屋



「何故なら・・・あなたの後ろにいるからです!」

「ヒィー!」

 悲鳴をあげるミカ。サラ渾身の怪談話を聞かされているからだ。まあ聞かされているといっても、ミカの方がお願いしたのだが。

「いかがでしたか?」

「メチャクチャ怖かったです。今の話、本当に半分実話なんですか?」

 話の前にサラはそんなことを言っていた。

「ええ。最後の辺りは驚かせるために脚色しましたが、内容はほぼ実話です。」

 それを聞いて、更に鳥肌を立てるミカ。

「もう怖くて寝れませんよぉ。サラさ~ん、一緒のベッドで寝てくださいぃ~。」

 ミカはサラに抱きつく。困った顔をするサラだが、満更いやでもなさそうだ。

「・・・かしこまりました。でもその前に、ほむらお嬢様の様子を伺ってきます。」

 そうだった!

 忘れていたわけではないが、マユリの身が心配だ。

「サラさん、あたしも行きます。」

 ミカは慌てて立ち上がり、サラの後に続こうとする。しかし、ここで思い止まった。

「あっ、でも大丈夫かな・・・サラさんも、今日はもう安心してここにいていいと思いますよ。」

 再びベッドに腰を下ろしながら言うミカ。その余裕の理由を知らないサラは、ミカに尋ねる。

「心配ではないのですか?もしかしたらほむらお嬢様がマユリ様の寝込みを襲うかも知れませんよ?」

 ほむらならやりかねない。サラはそう思っていた。

「それは無いと思います。本当にマユリ先輩が好きなら、あの寝顔を見て襲う気になれるはずありませんから。」

 自分がそうだったからだ。ミカはマユリの寝顔を思い出す。あんな尊いのを見せられては、荒波のように興奮する気持ちよりも、無風の海原のような穏やかな気持ちになってしまうだろう。それは全人類共通だと思う。

「そう・・・ですか。わかりました。」

 何となくだが、ミカの言わんとしていることがわかったサラ。


 マユリ様の寝顔を見れるなんて、羨ましい限りです。


 ベッドに腰を下ろしたサラは、マユリの寝顔を思い浮かべこの後の夜を過ごすのであった。もちろん、朝までミカが震えながら抱きついていたのは言うまでもない。



 アリス、ヒメノの部屋



「・・・・・・」

「・・・・・・」

 夜の11時。

 二人はもう就寝していた。

 しかし・・・

 下着だけしか着ていない、ほぼ半裸状態のヒメノにネグリジェを着たアリスが抱きついて寝ているこの状況。

 これを他の誰かが見たら・・・

 この二人は散々淫れた後、精も根も尽き果てて、そのまま眠ってしまったのだろうと思うに違いない。

 まあタネを明かせば、先に寝てしまったヒメノのベッドにアリスが潜り込んだだけなのだが・・・



 ハルカ、サクラの部屋



 ハルカは一人、ベッドの上でポテチを食べていた。サクラは建物内の見廻りに行ってしまったのだ。

「あっ、もう無い・・・」

 ポテチの袋の中が空になった。直ぐ様次のポテチに手を伸ばすが・・・

「何か甘いものが食べたいな・・・」

 遅い時間の甘いものは、流石に体に悪いことをハルカだって知っている。なので・・・

「アイスなかったかな?」

 棒アイス一本くらいなら平気だろうと言うことだ。

 ハルカは部屋を出て、台所へ向かう。確か買い出しに出掛けたとき、箱で買っておいたはず。

 台所に着いたハルカは迷いなく冷凍庫を開ける。そして愕然とした。

「あれ?嘘?・・・無い・・・」

 そして甦る記憶。


 そうだ。アイス溶けちゃうからって、みんなで帰りの車の中で食べちゃったんだ。


 ハルカは考える。別にアイスじゃなくても甘いものなら何でもいい。そうだ!リビングにあるお茶請けに、小さい袋入りの羊羹があった。

 急がなくてもいいのに早足でリビングに向かうハルカ。そしてまたしても愕然とする。


 えっ、無い!何で・・・あっ。


 心当たりがあるハルカ。


 そう言えば食べたわ、あたし。テヘ♪


 テヘ♪じゃない!この建家にあるもの全部食べきるつもりですか!あなたは!

「ううっ、どうしよう・・・樹液でも啜ってこようかな。」

 やめなさい!昆虫ですか!あなたは!しかし、今のハルカならやりかねなさそうだ。誰か止めてあげて!

 ハルカは玄関に向かう。とりあえず、念のために、蜜の出る良さそうな木を探そうとしているのだ。

「ハルカ様?如何致しましたか?」

 玄関を見廻りに来たサクラが、後ろからハルカに声をかけた。救いの手が差し伸べられたのだ。よかったねと言いたいところだが・・・

 ゆっくりと振り替えったハルカの顔を見て、サクラは一瞬言葉を失う。

 虚ろな目、痩けた頬、ヨダレを流す口。あの美貌はどこへやら・・・

「ど、どうしたんですか!しっかりしてください!」

 慌てて駆け寄るサクラ。蓋を開ければ大したことではないのだが・・・そりゃあ何事かと思いますよね。


 この後、ハルカはサクラにコンペイトウをもらって元気になりました。

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