第74話 海辺のランチ
8月初旬。AM10時。
とあるプライベートビーチ。
マユリ、ハルカ、ミカは燦々と降り注ぐ太陽の下で、海水浴を楽しんでいた。
とにかく楽しんでいた。
ハッチャケていた。
何かよくわからない魚も捕まえた。
名前をつけた。
逃がした。
そしてまた弾けた。
そうこうしているうちにもうお昼。
「御腹空きましたね。お昼にしましょう。」
ミカの一言で、3人は予め立てておいたパラソルの下に敷いてある、シートの上に集まった。
「サクラさん、お願いします。」
マユリはミカのボディーガードサクラに、預けていたお弁当を持ってきてもらう。本日はミカの希望で、マユリが昼食を作ってきたのだ。
「お持ちいたしました。どうぞごゆっくり。」
サクラはマユリにお弁当を手渡し、立ち去ろうとする。
「あっ、サクラさん。ちょっと待ってください。」
マユリはサクラを引き止めた。
そして・・・
「どうですか?もし宜しければ一緒に食べません?」
一緒に食べようと誘う。サクラは目をパチクリさせた。自分はあくまでもミカのボディーガード。マユリの友人ではない。いや、友人として見てしまうのはおこがましいとさえ思っているのだ。
サクラはミカに目を向ける。主人はにっこりと微笑んだ。
じゃあお言葉に甘えようかな。
サクラはマユリの隣に座った。
ピクッ
笑顔だが、ミカのこめかみが上がる。
サクラさん!何でマユリ先輩の隣?
一緒に食べるのはいいけど、あたしのフォローに回って欲しい!
憤るミカだが仕方がない。何故ならサクラもマユリファンの一人だからだ。主人には申し訳ないが折角の機会、親交を深めたいのだ。
「どうぞ。サクラさん。ボクの手作りだから味の保証はありませんけど、是非食べて感想聞かせてください。」
味の保証はできているのだが、やはり初めて自分の手料理を食べてもらう人のリアクションには不安がある。甘いのが苦手な人や辛いのが苦手な人。味覚は人によって様々だ。
家族やハルカ達は美味しいと言ってくれるが、サクラは果たして・・・
サクラはおかずを箸で掴み、ソーッと口に運ぶ。
パクッ、モグモグ・・・
ピシャーン!
雷に打たれたような衝撃が走った。ポロリと箸を落とすサクラ。それほどまでに驚いたのだ。
何てこと・・・
動かなくなったサクラをアワアワしながら見つめるマユリ。どうしたのだろう。まさか口に合わなかった?
「サクラさん?ど、どうしました?」
ミカはそんな今まで一度も見たことのないサクラの状態を見て、思わず聞かずにはいられなかった。
サクラは・・・泣いていた。
何だろう。この懐かしい味は・・・確かにマユリの料理は美味しい。しかし、ただのアスパラベーコン巻きで、ここまで感動するものだろうか。
・・・違う。違うのだ。これは母親が作ってくれていた料理と同じ。。美味しいだけじゃない、食べる人に対する愛情が込められている。・・・幸せの味。もう味わえないと思っていたあの味を、思い出すことができた。こんなもの食べてしまったら・・・涙が出ないわけがない。
「あわわわ・・・ごめんなさいサクラさん。無理に食べなくても・・・」
マユリは言葉を途中で切った。サクラが、優しく抱き締めてきたのだ。その背中は微かに震えている。
「マユリ様・・・ありがとうございます。」
ミカにとってサクラのこの行動は、普段なら怒りが湧くような行動だろう。しかし、今は黙って見るしかない。察したのだ。数年前に、親を失ってしまったサクラの気持ちを。ハルカはその様子を見て、サクラの身の上に何かあるのだと気がついていた。
そんなサクラを、マユリはギュッと抱き締める。
「サクラさん。今日だけじゃなくて、これからもこうして一緒に食べましょう。ボクのでよければ、お弁当また用意しますから。」
何があったかは敢えて聞かない。でも、自分に出来ることがあればしてあげたいと思ったのだ。
「・・・お心遣い、ありがとうございます。でも、そこまで甘えられません。お気持ちだけ受け取らせて頂きます。」
そう言うと、サクラはマユリから離れる。
もったいないな。
あたしだったら『じゃあ一緒に暮らしましょう』って言っちゃうのに。
指を咥え、羨ましがるミカ。そりゃあ、あなたならそう言うだろうけど・・・サクラの爪の垢でも煎じて飲ませてあげたい。
「すみません。皆さんのお手を止めてしまいましたね。どうぞ召し上がってください。っと言っても、私が作った訳ではありませんが。」
サクラは舌を出し、ウインクをする。年上の美しい女性がやると、とてもチャーミングだ。
3人は微笑み、ランチの続きを再開する。何度食べても飽きがこないマユリの手料理。サクラだけではない。ハルカもミカも、そこに感じるのはお袋の味。
この若さでこの味が出せるとは・・・
この後、ミカは遠慮もせずにマユリ料理をむさぼり食った。それはもう、全てを平らげる勢いでだ。しかしマユリは、こうなるかも知れないことを見越していた。おかずを多く作ってきていたのだ。なのでちゃんとみんなもお腹一杯食べることができた。円満解決!
「ごちそうさまでした。それでは私は仕事に戻らせて頂きます。」
サクラは一瞬で姿を消す。マユリとしては、サクラとも一緒に遊びたかったのだが無理を言っても困らせるだけだ。
3人は再び海に向かって走り出す。まだまだ遊びの時間は始まったばかりだ。
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