第50話 風邪引くよ?

 金曜日の朝。今日も雨だ。


 そんな中、元気に登校するミカ。明後日は誕生日。もうワクワクが止まらない。ご機嫌すぎてスキップで登校している程だ。

 そんなミカを心配そうに見ているボディーガード。


 あれでは風邪をひいてしまう。だからあれほどレインコートにしてくださいと言ったのに・・・


 そう、ミカはちゃんと傘を指していなかった。閉じたり開いたり、クルクル回したり、宙高く投げキャッチしたりと、傘で遊んでいる。確かにこれでは、降りしきる雨を傘で受けることはできないだろう。

 堪らずボディーガードはミカの前に現れる。

「ミカお嬢様。お願いしますからレインコートをお召しください。このままでは本当に風邪を引いてしまいます。」

 必死の説得。これもミカを思えばこそ。しかし・・・

「だ~いじょ~ぶ~♪今のあたしは無敵だから。」

 何の根拠もないことを言い出すミカ。ボディーガードは更に不安を募らせる。


 ・・・そうだ。


「ミカお嬢様。ではお車で参りましょう。車内ではいくら騒いでもいいですので。」

 これならミカも断らないだろう。そう思っていたボディーガードなのだが・・・

「ダ~メ。だって、もうそろそろ先輩達と合流するんだもん。」

 そう言いながら、ミカは更にテンションを上げる。

 ボディーガードは諦めざるを得なかった。


 仕方ない・・・せめてお着替えだけでも用意しておこう・・・


 角を曲がると、前に二人の女子高生の後ろ姿があった。マユリとハルカだ。

「おはようございます!先輩方、さぁ参りましょう。!」

 気持ちいいくらいの元気な挨拶。

「おはよう、ミカちゃん。今日もげ・・・」

 振り返りながら挨拶を返すマユリの言葉が途中で止まる。何故なら・・・

「ミカちゃん!びしょびしょじゃない!」

「何で傘持ってるのにそんなに濡れてるの?それじゃ風邪引いちゃうよ!」

 それぞれが驚きと心配の声をかける。しかしミカは余裕の表情だ。

「大丈夫です。今のあたし、無敵ミカモードですから。」

 無敵ミカモード?初耳だ。

「いや、でも・・・完全に制服が雨水吸っちゃって、滴り落ちてるじゃない。風邪引かなくても身体は冷えちゃうよ?」

 ほとほと心配になるハルカ。

「そうだよ!女の子何だからもっと身体に気を付けなきゃダメだよ!サクラさん!」

 注意した後、マユリはミカのボディーガードのサクラを呼ぶ。呼ばれて飛び出て直ぐに姿を現したサクラ。

「サクラさん!もっとミカちゃんに注意しなきゃダメだよ!きっとサクラさんの事だから言い聞かせようとしてくれたんだろうけど。それでも無理矢理にでもレインコート着せたりしなきゃ!」

 マユリは年上のサクラを叱りつける。もちろんサクラにはボディーガードとしての立ち位置があることはわかっている。でも、それでもマユリはミカのことが心配なのだ。

「申し訳ありません。今回の件、私の不徳のいたすところにあります。」

 謝るサクラ。しみじみ申し訳なさそうだ。

 そんな様子を一部始終見ていたミカ。


 あたし・・・マユリ先輩を心配させただけじゃなくて、サクラさんにも迷惑かけちゃった・・・


 ミカは反省した。そして、自分の無責任な行動に腹を立てる。


 バカバカバカバカ!あたしのバカ!みんなに迷惑かけてるじゃない!


「ごめんなさい!今着替えます!すぐ着替えます!サクラさん、お願い!」

 ミカはサクラに車を呼んでもらうと、直ぐ様乗り込んだ。キャンピングカー程の広さがある車内は、シャワーも完備している為身体に滴る雨水を洗い流すことができる。

 マユリとハルカ、そしてサクラは一先ずほっと胸を撫で下ろした。あんなにびしょびしょでは、まず授業を受けられないだろう。


 10分後


「お待たせしました。さあ参りましょう。」

 車から降りてきたミカ。その姿は・・・

「ミ、ミカちゃん・・・何?その格好。」

 戸惑いなから聞くハルカ。

 引くマユリ。

 頭を抱えるサクラ。

「どうしました?濡れてもいい格好ですよ?」

 恥ずかしげもなくポーズを決めるミカ。今のミカの格好は・・・スクール水着一枚とビーチサンダルだけだった。確かに濡れてもいい格好だが、そういうことを言っていたわけではない。三人が求めていたのは、濡れてもいいじゃなくて濡れずに済む格好だ。これでは学校に着いたらまたシャワーを浴びて、もう一度着替えることになるだろう。

「どうしました?早く早く~。」

 微塵も気にしていないミカは、マユリとハルカの先を行き二人を手招きする。


 は、恥ずかしくないのかな・・・


 ともかく二人は、ミカを挟むようにして歩くことにした。少しでも人の目を避けることと、傘で雨を防いであげるためだ。


 しかし無情にも、行き交う人の注目を集めてしまったことは言うまでもない・・・

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