86話 解放されて『壊れたヨグ』。


 86話 解放されて『壊れたヨグ』。



(俺は……これだけの領域に到って、まだ、『目の前の敵』に対して、普通にビビり散らかすのかよ……いつまでたっても、『無敵の神』にはなりきれねぇ……俺ってやつは、まったくもって、ヒューマンだなぁ……)



 などと、ファントムトークで、自分を整えようとする。


 そんなセンの視線の先で、

 ヨグが、完全に壊れた。


 容姿は、こぎれいな流線型で、スタイリッシュになった。

 まるで、『フリ○ザ様の最終形態』みたいに、

 余計な装飾がなくなって、

 非常に小ザッパリとした、『芯』だけが強固な化け物になる。


 ――『壊れたヨグ』は、自分の両手を見つめて、


「……『贅肉でしかなかった感情』が消えていく……『心』など、やはり、重りでしかなかった……」


 スっと、目を閉じて、天を仰ぎ、


「ようやく……ようやく、解放された……余計な荷物を失って、体の全てが羽のように軽い……」


 『軽やかな言葉』を世界に刻んでいく。

 『自分の軽さ』を堪能してから、

 ヨグは、センをにらみつけて、


「なぜ、『貴様』や『この世界』ごときに固執していたのか……今となっては、サッパリ分からない……実に愚かだった……数秒前までの私は……完全に狂っていた……」


「ヨグよ。今のお前って、まるで『ブラック企業で務めていた社畜が、目を覚まして、会社に退職願を出した直後』みたいな感じだな」


「……薄っぺらな言葉で、私を飾ろうとするな。私を誰だと心得る」


「知らんよ。誰だ、お前」


「私は、アウターゴッドの頂点。太陽を喰らう神。全にして一、一にして全なる者。つまりは真理の具現。神々の頂点、虚空の王ヨグ=ソトースである」


「大層な肩書だな。まあ、俺ほどじゃないが」


 そう言ってから、

 センは、ゴホンとセキをはさんで、


「俺は究極超神の序列一位。神界の深層を統べる暴君にして、運命を調律する神威の桜華。舞い散る閃光センエース。つまりは――」


 そこで、シッカリと武を構えると、


「――貴様を殺すものだ」


 そう言い捨てて、

 トプンと、沈むように、時空の中へと溶けていった。


 軽やかで鮮やかな『流(りゅう)』が舞い散る。

 ヨグの懐にとびこんで、

 命の中心に、『様子見のジャブ』で上品に挨拶。


 センの初手に対し、

 ヨグは、


「そのジャブには、なんの意味もない」


 遥かなる高みから言葉を投げかけてくる。


 センのジャブに合わせるように、

 体を綺麗に半回転させると、

 そのまま、センの懐にはいって、

 センの腹部にエルボーを刺そうとした。


 ――肘が、センの腹部にめりこむ感覚を確かに感じたヨグ。

 ――このまま、センの腹を食い破れる、

 そう思っていたヨグの『すべての感覚器官』から、センが煙のように消えてしまった。


「っ?!」


 すべては、コンマ数秒の中で起きた出来事。

 『一瞬の驚愕』が命取りになる世界で、

 ヨグは、『あまりにも無防備なコンマ数秒』をさらしてしまった。


 1フレームの中でセンを探す。

 気づけば、センは背後をさらっていた。


 わずかな一瞬の中で、

 センの声が確かに聞こえる。



「――残念。質量を持った残像でしたぁ」


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