46話 積み重ねてきた時間。


 46話 積み重ねてきた時間。


 プラチナムの向こう側に至ったセンは、


「――閃拳――」


 心を込めて『必死になって磨き上げてきた拳』を、

 外なる神に向かって放つ。



 ――マイノグーラが、

 センの拳を前にして、

 思ったことは一つ。


「狂気を感じる拳だ」


 そうつぶやきながら、

 マイノグーラは、紙一重のところで、

 センの拳を回避する。


 間近の超至近距離で、

 閃拳を観察しつつ、


「この拳に到るまで、いったい、どれだけの時間を積み重ねてきた?」


 問いかけられたセンは、

 コンマの中で、

 ジックリと間をとってから、


「――20年だよ」


 認知上の『ループしてきた期間』を口にする。


 そんなセンに、

 マイノグーラは、鼻で笑い、


「嘘をつくな」


「なんでバレた……本当は15年だ」


「なぜ、かたくなに嘘をつく? それほどの器が、10年や20年で出来上がるわけがないだろう」


「……嘘をついている気は一切ないんだが……」


 と、つぶやいてから、

 センは、


「逆に聞きたいが、あんたは、俺の拳を『何年物』の『熟成必殺技』だと予想する? ざっとでいいから、教えてくれよ」


「最低でも5億年」


「……へぇ」


 と、簡素な言葉を口にしてから、


「俺、いつ、5億年ボタンを押したのかなぁ……」


「最低でも5億。10億や20億もありえる……いや、あるいは、50億や100億という可能性も……」


 そんな、マイノグーラの追加情報を受けて、

 センは、


「となると、俺は、5億年ボタンを連打したことになるなぁ……なるほど。つまり、『あの作品のオチの成れの果て』が俺なのか……あれ? となると、俺って、そうとう、バカじゃない? ちょっとは賢いつもりで生きてきたけど、もしかして、俺って、世界一のおバカさん?」


 ファントムな言葉で世界を翻弄しつつ、

 センは、追撃の一手をくわえていく。


 美しい『神速閃拳』。

 人の目ではとらえられない速度の拳で、

 マイノグーラを叩き潰そうとする――が、


「本当に鋭い拳だ……人の身でたどり着いたとは思えない領域……」


 美術館の片隅で芸術品でも鑑賞しているような顔で、

 惚れ惚れしながら、神速閃拳を観察するマイノグーラ。


 神に褒められたということに、軽い高揚感を憶えつつも、

 センは、


「呑気だな……ナメんじゃねぇぞ!」


 と叫びながら、

 センは、さらなる追撃の一手をくわえていく。


 無数の神速閃拳を繰り出した。

 時折、心を込めて、龍閃崩拳も繰り出してみた。


 ――しかし、どれだけの数の拳を放とうと、

 マイノグーラに届くことはなかった。


 センの拳は、

 高みに至ったが、

 しかし、マイノグーラは、

 もっと、もっと、もっと、高い場所にいる。



「はぁ……はぁ……マジかぁ……壁を壊して、覚醒したのに……それでも、まったく歯が立たないのかよ……空気、読めよ……主人公が覚醒したら、普通、敵は死ぬだろ……常識的に考えて……」



 息を切らして、普通に絶望するセン。


 そんなセンに、


「主人公? 貴様が? 愚かしいことを。とんだ勘違い。この世界の主人公は私だ」


「……はっ……お前がそう思うんならそうなんだろう。お前の中ではな」


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