23話 生半可な想いでは届かない。


 23話 生半可な想いでは届かない。


「紅院家が抱えている最強弁護団を相手に闘いを挑もうとする法律屋はいないと思うが?」


「結果はともかく、私が死ぬ気で頼めばお父さんは動くよ」


「……」


「もし、アレだったら……その……今日、ウチにこない? お父さんに紹介したいから――」






「おっと、そこまでだにゃ。あんたの父親は、すでに、この件には関わらないと念書を書いてしまったにゃ。これが、その証拠にゃ」






 そう言いながら、どこかに電話が繋がっているっぽいスマホをわたしてくる。


 仙道麻友が、おそるおそる電話に出ると、


『……麻友、すまない……何もできない。してはいけない……』


 そんな、力ない父の声が聞こえてきた。


「お、お父さんに……何を……」


「何もしてはいないにゃ。ただ、下手に動くと、娘さんがどうなるか分からないという旨の注意喚起をさせてもらっただけにゃ。世の中、ぶっそうだからにゃぁ。いつ、さらわれて、まわされて、臓器を奪われて、皮をはがされて、火をつけられて、殺されるか、わかったものじゃないからにゃぁ」


 ニタァっと黒い笑顔で微笑む彼女に、

 仙道麻友は、心からの恐怖を覚えた。


 ビビって足がすくんでいる彼女に、

 茶柱は、とどめとばかりに、


「他人のモノがおいしそうに見える。その感性は分からないでもないけど、まさか、ツミカさんのモノを奪い取ろうとするだにゃんて……これは、ちょっと……許せないにゃぁ」


 グっと一歩、詰め寄って、

 ニタニタ顔のまま、しかし、まったく笑っていない目で睨み、

 彼女の耳元で、他の誰にも聞こえないであろう、小さな声で、


「失せろ、泥棒猫。殺すぞ」


 と、一言だけつぶやいた。


 恐怖が絶頂に達した仙道は、

 目に涙を浮かべながら、脱兎のごとく、その場をあとにする。


 その様子を見ていた周囲の有象無象は、

 『このままここにいたら、こっちにも飛び火がくるやも』と、

 恐怖にかられて、蜘蛛の子散らすように逃げ出していく。


 静かになった廊下で、

 茶柱は、センに、笑顔を向けて、



「さて、何か弁明はあるかにゃ? 話だけなら聞こうじゃにゃいか。もし、下手な嘘をついたり、だんまりを決め込んだりした場合、容赦なく離婚にゃ!」


「実は、彼女は宇宙人でな。超ヒモ理論についての話を延々と聞かされて困っていたところだ、助けてくれて、ありがとう、茶柱さん」


「なーんだ、そうだったのかぁ。ほっ。安心、安心」


「完全に嘘だろうが! 早急に離婚の手続きを進めろよ」


「彼女は、宇宙の中に存在する地球の人間なので、宇宙人と定義することも可能にゃ。あと、この世の全ては粒子の集合体にすぎないから、どんな内容であれ、超ひも理論の話と言えなくはないにゃ」


「……一つ聞きたいんだが、お前は、俺と離婚したいのか、離婚したくないのか、どっちだ?」


「答えはコレにゃ!」


「なんだ、これ……カタログ?」


「実は、金婚式の記念品をどれにするか悩んでいたところにゃ。一緒に考えてほしいにゃ」


「……50年後の記念品を今考えんのかい……気がはやいとかいうレベルじゃねぇな」

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