16話 コールサインは……


 16話 コールサインは……


「いや、これ、ヤバいよ! 絶対に、ニュースになるよ! 登録者、一気に増えちゃうよ、まいったなぁ。有名になっちゃうなぁ。金持ちになっちゃうなぁ。何を買おう……やっぱ、車かなぁ……」


 ドーパミン全開の顔面で、

 ニヤニヤしながら、そんなことをつぶやくカレー男を横目に、

 佐田倉は、

 おもむろに、ふところからスマホをとりだして、どこかにかける。


 半コールで繋がる電話。

 異常な速度のレスポンス。

 異常なのは速さだけではなく、対応も同じ。



『――コールサインを』



 挨拶もなしで、言葉を投げかけられた佐田倉は、


「ゴースト06」


 『お決まり』の返答を秒で返す。


『認証した。――【ヒーロー01】は、今、どうしている?』


「時空ヶ丘学園に向かった。お嬢たちに連絡を」


『了解』


「それと、『ヒーロー01が瞬間移動するところ』を、アホのユーチューバーに撮られた。対応、よろしく」


『拡散されてもかまわないだろう。むしろ、ヒーロー01の【存在】と【その尊さ】を、世界中の人間が知るべきだ』


「……ヒーロー01は、それを望まない」


『わかったようなことを言う』


「…………あんたよりは、兄さんを理解しているさ」


 最後に、盛大なマウントをとってから、

 ゴースト06は、電話を切った。


 通信終了から五秒も経たないうちに、

 『戦場帰り丸出しのグラサンスーツ』の男たちが、

 店の中に入ってきて、カレー男の周囲を取り囲む。


「え、え?! ちょっ! え?! むぐっ――」


 何一つ現状を理解できないまま、タオルを口の中に突っ込まれ、

 『人一人ぐらいは余裕でおさめられる黒い袋』に詰め込まれる。


 そのまま速やかに店の外へと連行されるカレー男。

 一分もしないうちに、店の中は静かになった。


 ほとんど無音になった店内で一人、

 佐田倉は、天を仰ぐ。

 そして、

 カレー男の存在など頭の中から消去して、

 自分の『中』へと没頭する。



「メシ炊いて、運転手やって、背中を流して……そうじゃないはずだ……もっと出来たはずだ……もっと頑張っていれば……いや、もちろん、限界まで頑張っていたとしても、どうせ、結果は何も変わらなかった……俺に携帯ドラゴンの適性はない……けど、それは兄さんも同じ……だから、そういうことじゃないんだ……そういうことじゃない……」



 奥歯をかみしめ、拳をにぎりしめる。


 自分の言葉を否定して、

 自分の人生を否定して、

 それが『逃げ』であることを自覚することで、

 あふれ出る『どうしようもなさ』と向き合う。


 そんな、くだらない虚無感とのエンドレスワルツ。

 『自分の無力を思い知る』という人生の螺旋階段。

 上がっているのか、下がっているかは分からなかったが、

 『螺旋状になっている』ということだけはよくわかった。


「もうすぐ、運命の日がくる……俺は、あなたと過ごした日を失う。次のループ先で、あなたは、俺を求めないだろう。意味がないから。――俺の役目は、始まりもせずに終わった」


 とうとうと、佐田倉は、

 誰にも届かない言葉を、


「……立て直したい……俺の全部を……そして、向き合いたい……あなたを支えたい……」


 天に向かって、


「生まれ変われたら……なんて、そんな現実逃避は大嫌いだが……けど、もし、生まれ変われたら、俺は、あなたを支える一つになりたい……」


 願いを口にした。

 それが叶うかどうかは分からないが、

 しかし、天は、確かに、佐田倉の願いを認知した。

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