1話 キ〇ガイムーブ全開!


 1話 キ〇ガイムーブ全開!


 ――『さすがに、その日は帰るのだろう』、

 と、誰もが思っていた。


 第二アルファで、散々、鋭角な地獄を経験して、

 心身ともに疲れ切っているセン。


 普通だったら、家に帰る道程すらしんどくて、

 その場でバタンと倒れこみ、

 泥のように眠ってもおかしくはない。


 が、センは、

 黒木に対して、


「とまあ、そんな感じだ」


 『バロール杯』で何があったかを、

 軽く説明しつつ、


「オメガレベルという追加システムを手に入れたが、これが、どうして、なかなか危うい。経験上、あまり、これに頼るのはいかがなものかと、今は、絶賛、ビビリ散らかしている」


 軽く、サっと、


「図虚空、こい」


 『図虚空を召喚できるかどうか』を試し、


「お、いけるな。オメガレベルを獲得したかわりに、こっちは消えました、的な展開になったらどうしようと思っていたが、これなら、問題は何もない」


 普通に呼び戻せることを確認してから、

 当然のように、


「――第二アルファでのアレコレで、だいぶ時間を消費したかと思いきや、どうやら、『精神と〇の部屋方式』だったらしく、こっちでは、ほとんど時間がたっていない様子。というわけで、さあ、アイテムを探すぞ。モタモタするな、黒木」


 と、キ〇ガイ全開のムーブをかましてみせた。

 この行動には、

 『実のところ、案外、K5の中でもトップクラスに頭がおかしい』ことでおなじみ黒木愛美さんも、さすがに、苦虫をかみつぶしたような顔で、


「……え、正気ですか?」


「なにがだ?」


「無邪気な顔で首をかしげないでください」


 呆れ全開の深いタメ息をつきつつ、


「あなたは、今、謎に超ハイスペックな異世界に転移して、そこでエゲつない大冒険を繰り広げて、何度も地獄を見て、心底から疲れ果てているのでしょう?」


「ああ、正直、かなりしんどい。とりま、今すぐ眠りたい。――で、それがなんだ?」


「なんだ、じゃないですよ。そこまで疲れ果てているのであれば、今日ぐらいは、普通に帰って寝ましょうよ」


「はは」


「なにワロてんねん」


「笑うしかないんだよ。そのぐらい、第二アルファで、アレコレしていた時の俺は酷かった。詳しく説明すると死にたくなるからやめておくが……あまりにも無様で、あの時の記憶がカケラでも脳裏をよぎると、それだけで、頭を抱えて死んでしまいたくなる……そのぐらい、『しんどい惨めさ』を晒してしまって、今、普通に死にたい」


 あふれんばかりの自殺願望を並べて揃えてから、


「わかるか、黒木。ようするに、俺は……このまま、帰って、寝たくないんだ。肉体的には『休みたい』と思っている。それは事実だが、しかし、今の俺を蝕んでいる『羞恥マインド』的には、とにかく全力で仕事をして、この惨めさを忘れたい」


 ダダダダダっと、マシンガントークで、心情を吐露すると、

 センは、黒木に背中を向けて、


「というわけで、行くぞ、黒木。覚悟しとけ。今夜は寝かさないぞ♪」


「……いや、まあ、私は、ほとんど寝ていたので、別に、徹夜を決め込んでも、さほどしんどくはないのですが……あなたは……死ぬんじゃないですか? そんな無茶ばかりして……」


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