53話 死体漁り。


 53話 死体漁り。


「私には関係ない」


「……いや、アレを召喚したのはお前だから、お前は、ガッツリと関係者……というか、普通にゴリゴリの加害者なんだが」


「いつだって加害者は身勝手で、被害者は泣き寝入りを強いられるもの。それが、世の条理」


「いや、真理っぽく言われても……改善していく努力をしてみようぜ。そうすれば、少しは、世の見え方が変わってくるはずだ」


「それでは、さっそくはじめよう。ゆけ、オメガバスタードラゴン」


「こんな時だけ、御託なしですか?! もう少し、心の準備を――」


 などと叫ぶセンの嘆きを完全シカトして、

 オメガバスタードラゴンは、センに向かって猛攻を仕掛けてきた。


「どっひゃぁあああああっ!!」


 パワー・スピード・硬度、

 すべてが尋常ではないモンスターの中のモンスターが、

 今、まさに、センを殺そうと暴れ散らかしている。


「いやいやいやいやいや! えぐい、えぐい、えぐい!」


 ギリッギリのところで、

 どうにか回避しているものの、

 しかし、全身全霊を賭した全力緊急回避で『やっと』なので、

 そんなものを永遠に続けられるわけがなく、

 また、仮に、ド根性フルブーストで避け続けられたとしても、

 回避を続けているだけでは、永遠に、この地獄は終わらない。


(ちょっと待て、マジか……ヤバいって……あのドラゴンの動きを見る限り、おそらく、『図虚空ありで、ギリ勝てるかどうか』ってレベル……上位のS級GOOと張るレベルの暴力……そんなものを『今の俺』がどうにかできるわけ――)


 『ゆっくりと嘆いている時間』などあたえてくれない。

 オメガバスタードラゴンは、次から次へと、

 猛攻の波状攻撃を仕掛けてくる。


 スレスレでかわしながら、センは、


(……どうする……どうする……)


 極限まで脳の回転速度が上がっていく。

 目がバキバキになって、神経が、世界を俯瞰でとらえだす。


 絶体絶命を前に、ゾーンへ突入するセン。

 ただ、いくら、超高位の集中状態になったとしても、

 『回転速度を上げる』までが限界で、

 『対抗できるだけの出力』を捻出することは不可能。


(か、勝てない……死ぬ……)


 理解に届くと、

 より深く、視界の中の『世界』が立体に見えてくる。


 ピカピカと光りはじめる。

 インパルスが走る。

 思考速度が、常軌を逸し始める。


 そんな、高速化された脳が、

 視界の中から、『可能性』を見つけ出す。


(――ゴブリンの死体から……何か……奇妙な――)


 オメガ火ゴブリンの死体をよく観察してみると、

 薄く淡い光が漏れていた。

 目をこらさないと見えない程度の小さな粒子。


 チラチラとまたたいて、

 センの心を惹きつける。


 ――センは、


「くぉおっ!」


 どうにかこうにか、オメガバスタードラゴンの攻撃をかいくぐり、

 オメガ火ゴブリンの死体めがけてダッシュする。


 なんとかオメガ火ゴブリンに近づくと、

 センは、その死体を掴み上げ、

 走りながら、ガサガサッと、だいぶアラく漁(あさ)り散らかす。


 すると、オメガ火ゴブリンの胸の中に、

 『粒子の塊』とでもいうべき『何か』が、ドクドクと、脈動しているのに気づいた。

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