97話 世界一の美少女を侍らせてお風呂に入る命の王。

 97話 世界一の美少女を侍らせてお風呂に入る命の王。


「こうしてみてみると、筋肉とかは、普通なんやなぁ。というか、ジブン、結構なヒョロガリやなぁ」


「……えぇ……うそぉん……」


 振り返って、声の主を確認すると、

 そこには、当たり前のように、

 水着姿のトコが立っていた。


「……え、何してんの、お前……」


 本気の疑問をぶつけてみると、

 トコは、作りこまれた『すまし顔』で、


「何って……いうまでもないやろ? 世界一の美女を侍(はべ)らして風呂に入る……これぞ、男のロマン! 一生に一度ぐらいは叶えたい夢! 究極の願望! ならば、OK! 叶えてあげましょう! この幸せ者! ラッキーボーイッ!」


「……いらんいらんいらん」


「まあまあ、そう言わんと」


 そう言いながら、トコは、当たり前のように浴槽の中に入ってきて、センの隣に腰をおろす。


「ええ湯やなぁ」


「言ってる場合か」


 言いながら、ほとんど反射的に、軽く距離を取るセンに、

 トコは、


「離れんでええやないか。むしろ、もっと近づきぃや。ほら、肩を組むくらいやったら、ギリギリ許すで? あ、でも、ガッツリ来るんは、まだちょっと勘弁してほしいなぁ。申し訳ないけど、まだ、心の準備が足りてないねん。あたし、経験値不足かつ普通に臆病やから。もうちょっと、時間をくれたら、普通にイケると思うんやけど、ほら、まだ、お互いの――」


「ちょっと黙れ。しんどいから」


 タメ息交じりに、右手で頭を抱えて、


「ここって、普通に男湯だろ? 混浴とかじゃないよな?」


「もちろん、普通に男湯やで。けど、貸し切ってるからなぁ。何したって別にかまへん」


「……こっちは、大いにかまうんだよ……つぅか、逆に考えてみろ。貸し切りだからって、俺が女湯の方に突撃をかましたら、お前、どう思う?」


「だいぶヤバい変態やなぁ、ってドン引きする。あんたの場合に限り、ギリ我慢するけど、他の男がソレをしたら、問答無用で下腹部をエグリとる。絶対に許さへん。ありとあらゆる絶望を与えた上で殺す」


「……そのぐらいヤバいことを、あなた、今、俺に対して実戦中なのですが?」


「あたしは、『ハンパない美少女』やから問題は皆無。基本的に、美少女は、何をやっても『萌え』の一言ですまされるから」


「……まあ、『世の傾向』という視点で言えば、その戯言も、あながち否定しきれないが……」


 仮に、不細工なオッサンが、街中で唐突に奇声を上げたら、

 結構な大事件として扱われるだろうが、


 美少女が、街中で唐突に奇声を上げた場合、

 『痛い子』という特殊属性が付与されて、

 『一部の層』の男子が萌え狂う。



「閃、ちょっと、こっち向いてくれる?」



「……え、なんで?」


「ええから、ええから」


「……」


 どうしたものかと、一瞬、悩んだものの、

 この状況で、

 変に『狼狽(うろた)えている姿』を見せる方が恥ずかしい、

 という『純粋な中高生的思考』にいたったセンは、


「……」


 あえて、

 『逃げる』のではなく、

 『別に、この状況ぐらい、大したことありませんけど?』

 的な雰囲気を出しつつ、

 『トコと向き合う』という決断をくだした。

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