8話 プランB。

 8話 プランB。


(……『見ただけでは判別不可能な特注品のモデルガンを配っている』という事実がある以上、この手紙の信憑性は非常に高い……もちろん、ただのハッタリである可能性も十分にあるが……)


 仮に『ドッキリでした、殺したりしないよーん』という展開だったら問題は特にない。

 その時は首謀者に『ハードめな腹パン』を入れるだけで事体は穏便に収束する。


 が、問題なのは、首謀者が、

 本気で『生徒の殺害』を実行に移そうとしている場合。


(精巧すぎるモデルガンの存在は、非常にわかりやすい『言い訳』たりうる……)


 『間違って、本物を配布してしまった。それが今回の痛ましい事故の原因です』


(仮に、紅院家が、『本気』で、かつ、『次』も含めて想定しているのであれば、今回の件で『本気度』を証明してくる可能性は大いにありえる)


 立場的に『失敗』が許されない『高位の為政者』は、

 常に『プランB』を想定しているもの。

 ようするには、

 『ここでセンが動かない』というケースが発生した場合の対処法。


 『プランB』を成功させるための布石として、

 『今回のプランAで、実際に、何人か殺して、本気度を証明する』という、

 『最低最悪の警告』を実行に移す可能性がある。


 この場において、というか、センにとって、

 『殺戮の確率』が高いか低いかはどうでもいい。


 『その可能性を突き付けられた』ということそのものが大問題なのである。


(……ナメたマネしやがって……)


 センの心がシンと静かになった。

 自律神経が整列する。

 センの中の感覚が研ぎ澄まされていく。


 静電気に包まれているかのようなピリつき、

 頭がスーっと鮮明になる。



「ん? おい、閃、どこにいくんだ?」


「トイレ。腹が痛い」


「今は、占拠されている途中なんだから、テロリストにお伺いをたてるべきなんじゃねぇの?」


 そう言われたセンは、

 テロリストに、


「……トイレ、いきたいんですけど」


 そう声をかけると、

 そこで、テロリストが、全員に向かって、


「ほかにトイレに行きたい者は?」


 そこで、誰も手を上げない事を確認してから、

 センに、


「本物のテロリストなら、ここで、君についていって監視するだろうけど……まあ、訓練だから、そこまではしない。実戦ベースとは言っても、なんでもかんでもリアルにすればいいというものではないから」


「……『監視されながらクソをする訓練』なんて必要ないですしね」


 などと言いつつ、センは教室から出ていった。






 ★






 隔離された紅院たちは、

 校長室のソファーに腰を掛けて、

 ノンビリとお茶を飲みながらダベっていた。


「……あのテロリーダー、電話しながら出て行ったっきり、全然帰ってこぉへんな」


 テロリーダーは、現在、急用で席をたっており、

 この空間には存在していない。


「テロリーダーにもいろいろあるんでしょう。両親の危篤とか、妻の出産とか、子供が熱を出したとか」


「嫁と子供おるやつがテロリーダーになるかなぁ」


「まあ、一定数いると思いますけどねぇ。もっとも、あの人の場合、実際のテロリーダーではないですが」



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