33話 あっれれ~。

 33話 あっれれ~。


「所詮はナイフを試すついで。つまりは、結果論にすぎないが……茶柱、今日だけは、お前のヒーローをやってやる」


 センの『その宣言』を聞いて、

 ウムルは、ギリっと奥歯をかみしめる。

 不快感をあらわにして、


「ヒーローねぇ……ギャグで言っているのなら、まだかわいげがあるというものだが……本気だとすると、笑えない話だ」


「心配するな、ウムル。俺に、可愛げなんてものは、微塵もない。つまりは、しかして、すなわち、結局のところは……」


 無駄に言葉を並べながら、

 センは、緩やかに武を構えて、


「――ただの笑えない戯言。そんだけ」


 堂々と言い切る。

 センは『徹底的に尖った愚者』のまま、

 続けて、


「……ちなみに、俺の『エゲつない無様』は、今回に限った話じゃねぇ。俺の人生は、だいたい、全般的に、そんな感じだ。……あらためて考えると、ほんと、笑えねぇ……けど、まあ……こういう生き方しか出来ない気がしないでもない今日この頃、いかがお過ごしですか――みたいな感じなんでね。しゃーない、しゃーない」


 無駄な言葉をたくさん並べて、

 意味のない言葉をたくさん使って、


 必死に、『恥ずかしい本質』を隠そうとしているが、

 他者の目には、普通に、バレバレというか、

 『それで、隠しているつもりなのか?』と、

 小一時間かけて問いただしたくなるほどお粗末だが、


 しかし、だからこそ、むしろ、

 『いろいろマジでやべぇ』ということが伝わってくる。


 センの頭の悪さが。

 その徹底した愚かさが。


 ――伝わってくる。

 染み渡ってくる。


 茶柱の奥に。

 心の芯に。


「……なんで? ……ユウキも……あんたも……なんで……」


「茶柱。お前の弟と俺を一緒にするな。今、俺とお前の弟は、なんかこう、うまいぐあいに噛み合っているみたいな感じだから、よくわかるんだが……お前の弟は、明らかに、お前の『心の痛み』を優先させている。俺は違う。俺はお前の感情を優先したりしない。いつだって、俺は『俺がやりたいこと』を最優先させる。許容できないことに対しては、両手両足を折られようが、絶対に首を横に振り続ける。それが俺。ぅわぁお、超絶自己中ぅ。友達ゼロの称号は伊達じゃなぁい。さすが、センエースさんは格が違った」


「……」


「さて……誤解も全て解けたことだし……それじゃあ、そろそろ、はじめようか」


「なにをはじめる気なのかな?」


「決まっているだろ」


 そこで、センはギンッと視線を強くして、

 ウムルを睨みつけ、




「お前を殺す」




「はははっ! バカが! そんなことが、出来ると思っているのか?!」


「できるかどうかなんざ、ぶっちゃけどうでもいいんだが……まあ、でも、その質問には明確な回答ができるから、まっすぐに答えてあげよう。――はい、出来ると思います。まる」


「……たいした自信だ。愚かな自惚れも、そこまで貫き通せるなら『なかなかのものだ』と感嘆できる」


「自信じゃねぇよ。ただの勘だ。『あっれれ~? なんだか勝てる気がするぞぉ?』みたいな感じだ。根拠は皆無だから、自信には繋がらねぇ」


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