82話 久剣一那。

 82話 久剣一那。


「何を黙っている! 『どうして助けようとおもえないのか』と聞いている! 答えろ! クソガキ!」


 などと、激昂しているメイドに対し、

 センは、


「……真正面のドアを守っているってことは、もしかして、あんた、この中で一番強い?」


「話を逸らすな!」


「繋がっているんだよ。というか、『あんたの質問に答えるための前ふり』をしている。俺は逃げも隠れもしない。あんたは、今、『初対面の相手に名前も名乗らず詰問(きつもん)をかます』という『途方もない無礼千万』をかましているんだ。その代償として、前フリにくらい付き合えよ」


「……」


「で? あんたはこの中で一番強い?」




「……久剣一那(くつるぎかずな)」




「はい?」


「名前。私は久剣一那。今は亡き最強の神話狩り『久剣一美』の姉」


 その唐突の自己紹介に対して、

 最初に反応を見せたのはトコだった。


「……いや、『最強』は『内野(うちの)』やったけどな。何回か、カズミと内野が戦ってんの見たことあるけど、普通に内野が全勝やった」


 『内野(うちの) 光平和(しゃいんぴーす)』は、先代のリーダー。

 ちなみに、下の名前は本名ではなくペンネームであり、

 本名は誰も知らなかった。


 内野は、強いGOOを見ると、

 『オラ、ワクワクすっぞ』とばかりに、

 満面の笑顔を浮かべて特攻をかますバキバキの戦闘狂で、

 かつ、

 『細かいことは殺してから考えよう』

 が口癖と言っても過言ではない、

 純粋無垢なトリガーハッピーでもあった。


 その奔放かつ豪快な性格から、

 メンバー全員から『やべぇヤツ認定』はされていたものの、

 なんだかんだ、『最強の実力』を持っていたため、

 メンバーからの『武力的な意味』での信頼は厚かった。


 当時のメンバーは、紅院たちを含め、全員が、

 『内野は、なんだかんだ無敵だから、どんなGOOがきても、きっと大丈夫だろう』

 と思っていたが、

 先のGOO大戦で、内野は、

 間違いなく『最も武功を挙げた』ものの、

 結局のところは、あっさりと死んでしまった。



「私は潜在能力の事を言っている」



 と、一那は、ピシャリと、トコの言葉を切りすてて、

 強い視線で、センを睨みつけ、


「私は、一美ほどの天才ではないが、正統なる久剣家の末裔。ゆえに、武道の才は、この中でも頭一つ抜けているという自負がある」


「あ、やっぱり? ま、配置的に、間違いなくそうだろうとは思っていたけど……」


 そう言ってから、

 センは、コホンと息をついて、


「本物の強者は、立ち居振る舞いを見るだけでも、相手の強さが、なんとなく分かるって……マンガやアニメの達人はよく言っているけど、実際のところ、どうなの?」


「……筋肉の質や身のこなしを見れば、だいたいの力量は察しがつく」


「おお、マジなんだ……」


 感嘆してから、


「で? 達人であるあんたの目から見て、俺はどう? 筋肉の付き方とか、一挙手一投足とか……強者に見える?」


「まったく見えない。あなたからは、一ミリも強者の覇気を感じない」


「だろうね。当然だ。なんせ、これまでの人生で、一秒たりとも修行とかしたことねぇもん。10キロも走ったら、足が棒になる程度の体力しかないのが、この俺。一般人代表閃壱番」


 ドンと、効果音を背負いながら、

 大見得を切って、


「そんな俺を、化け物が渦巻く戦場に引っ張り出そうとしているお前らにこそ、人の心があるのか、と尋ねたいところだね」


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