71話 ファントムトーカーズ。

 71話 ファントムトーカーズ。


 ――センは、自分の両手をみつめながら、


「俺自身が一番教えてほしい。俺が何なのか……これまでの十数年、ずっと、ヒョロガリをやってきた俺が、どうして、バケモノを殺せたのか……」


 真剣に、自分自身の存在に悩むセン。


「……」


 奇妙な空気にあてられて、

 押し黙ったトコ。


 場の空気がよどんだのを感じたセンは、


「もしかして、あれかな? 実は、俺は、どっかの国で改造手術を受けたエージェントで、今は記憶をなくしている……みたいな?」


「……なんか、そんな映画、みたことある気がする……」


「ああ、俺もあるよ。だから、思いついたんだ」


 などと、どうでもいい会話を交わしたことで、

 空気に、じゃっかんの軽薄さが生まれた。

 軽さも、薄さも、時には必要。

 重たくて濃いばかりじゃ胃が持たない。


 トコが、


「隠しとるわけやなさそうやな……変なやっちゃなぁ……ほんまに、ナニモンなんやろ……正直、不気味やわぁ。吐き気する。同じ空気を吸いたくない、生理的に無理」


「……持ち前の『素直さ』が暴走しているな。『不気味』は言い過ぎだろ。それは『男子高校生が女子高生に言われたらヘコむ悪口、ベスト1位』の暴言だぞ。ちなみに、

 『吐き気する』は『男子高校生が女子高生に言われたら心が折れる悪口、ベスト1位』で、

 『同じ空気を吸いたくない』が『男子高校生が女子高生に言われたら一生引きずる悪口、ベスト1位』で、

 『生理的に無理』は『男子高校生が女子高生に言われたら自殺する可能性が高い悪口、ベスト1位』だ。各方面のナンバーワンで攻め込んでくるんじゃねぇよ」


「でも、あたし、嘘つけへんから」


「あれ……おかしいな……俺は、お前のことを、『世界一やさしい人間』だと思ったから、命を賭して、あのバケモノと戦おうと思ったんだが……現状の会話からは、一抹の優しさすら感じない……」


「それは、大いなる勘違いやな。昨日のあんたにおける『数少ない反省点』ともいえる。ハッキリと断言しておくけど、あたしは別に優しくない。『イヤなもんは死んでもイヤや』って言い続ける頑固さがハンパないだけ。自分で言うのもなんやけど、単純にイカれとるだけや」


「……まあ、お前はそう言い続けるだろうな」


 そう感じた理由は一つ。

 『自分と同じだ』と思ったから。


 センもそう。


 昨日、センが、あのバケモノと戦おうと思った理由は、

 『トコを見捨てる』のは『センエースの中』では『ありえない』から。

 それは、優しさどうこうではなく、

 『自分の中にベッタリと根付く絶対に曲げられないルールから』である、

 ――と、センは、この先、何があろうと言い張り続ける。


 そして、それは、これから先もそう。

 行動理由は、常に、

 『優しさ』ではなく『イヤだから』、

 と言い続ける気概。


 それは、

 『正義を執行しているのではなく、嫌いなヤツに悪党が多いだけ』、

 という崇高な理論にも通ずる概念。


 『正義』は、『時代』で移り変わり得るが、

 『覚悟を決めた個』の『信念』は、決して揺らがない。


(探せばいるもんだな……『俺と似た人間』というのも……まあ、別に探していたワケじゃないが……)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る