68話 中心を殺した。

 68話 中心を殺した。


(生まれてこの方、一度も、剣を握ったことなどないのに……なんで、今、俺は、こんなにも、シックリとした感覚を覚えているんだろうねぇ……あと、俺は、なんで、魔力がどうとか、わかるんだ? もう、いろいろ、さっぱりだ……)


 自分に対する深い疑問を抱きつつも、

 センは、

 静かに呼吸を整えて、

 心身を一致させると、

 世界と調和しつつ、


 ゆったりと、




「――細転一閃(さいころいっせん)――」




 などと、

 テキトーに、頭に浮かんだ必殺技名をつぶやきながら、


 真一文字に、剣を薙いだ。


 シュンッ、


 と、小気味いい音が響き渡る。

 次元が裂けた気がした。


 そう思ったと同時、

 ロイガーの肉体が、


 バラバラバラッ……ッ!!


 と、サイコロステーキサイズの細切れになった。

 一瞬の出来事。

 センの刃は、わずかな抵抗すら許さず、

 ロイガーの全てを切り刻んだのだった。


 ――この上なく美しくバッラバラになったロイガーの肉体は、

 風に吹かれると、

 雪の結晶みたいに、

 スゥっと溶けていった。


 その様子を見ていたトコは、


「ころ……した……ぇぇ……うそぉ……なんで……ただ、刃物で切っただけで、GOOが、どうして……え、なんで……?」


 当たり前のパニックに陥っていたが、

 どうやら、頭の一部分だけは、冷静だったようで、


「ぁ、あっ! で、でも、蘇生するんやない?!」


 ロイガーが言っていた言葉を思い出し、

 自動蘇生することを恐れたが、

 しかし、



「――『中心』を殺したから、無理……こいつの魔カードに込められている蘇生魔法は、核ごと蘇生できるほど上等なモノじゃない」



「ぇ、なんで、そんなこと知っとるん……?」


「知っているワケじゃねぇよ……そんな気がするだけだ」


「気がするだけかい!」


「けど、たぶん、合っている……なんでか知らん……マジでわからん。俺は、なんで、そんな気がしているんだろう……なんで、こいつを、殺せたんだろう……」


 ブツブツ言いながら、

 センは、


「俺、思うんだけど……これ、たぶん、夢だよな? うん、夢だ……そうじゃなきゃおかしい……もう、いろいろおかしい」


 などとつぶやいていると、

 センは、


「……ぁっ……」


 ガクっと、

 その場に倒れこむ。


「えっっ、ちょぉっ?! ――だ、大丈夫かっ?!」


 かけよってきて、センを支えるトコ。


 センは、朦朧としながら、


「ほら……やっぱり夢だ……そろそろ目が覚める感じだ……その証拠に、フワァっと、意識が……遠く……」


 その言葉を最後に、

 カクンっと、気を失ったセン。


 ――単純な話。

 脳が『人の限界』をゆうに超えて、過剰に働きすぎたから、パンクした。

 ゆえに気絶した。

 それだけ。


「ちょっ……死んでへんやろな?! マナミ! 回復魔法! いそげ!」


 無意識のうちに、心と体と神経をすり減らし、

 限界を超えて摩耗しつした結果、

 糸の切れた人形みたいに昏睡するセン。


 ――はためには『楽勝』だったように見えるが、

 実際のところはそうじゃない。

 ロイガーとの対面において、センが、

 マイクロ単位のわずかなミスを、

 ほんの一つでも犯していたら、

 バラバラになっていたのは、

 ロイガーではなく、センの方だった。


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