53話 魔法の使い方。

 53話 魔法の使い方。


 変身した紅院を見て、

 ロイガーは、


「ふむ……なかなか強いじゃないか。中級GOOクラスと言える魔力だ」


 余裕の笑顔で、パチパチと拍手をして、

 トコたちに視線を送り、


「貴様らは変身をしないのか? なんなら、全員変身するまで待ってやるぞ?」


「アホか、ホンマもんの切り札は、ここぞって時に出すもんやろ。まずは、最弱のミレーで様子見してからや」


「なんだ、変身できるのは、そこの赤髪だけか。つまらんな」



(くぉお……ハッタリは通じんかぁ……『トランスフォーム機能』を積めるようになる強化アイテムはアホほど希少で、一個しか入手できへんかったから、ミレー以外は変身できへんねんなぁ)



「最初から分かっていたことだが、ここまで暴力的な差があっては、さすがに、『役目』をはたせない。……よし。では、私が捻出するオーラと魔力は、10分の1以下に抑えることにしよう。それなら、さすがに、多少はマシな戦闘になるはずだ。これならば、役目をはたせる」


「役目、役目、とうるさいのう。何が目的か知らんけど、あたしらの命を、事務的に処理しようとしやがって。どういうつもりやねん。……あんたらGOOと比べれば、人間は確かにカスやけど、あたしらの事だけは、ナメたら痛い目にあうって教えたる!」


「ナメてはいない。状況にあわせて、適切な判断を下しているだけだ」


 その煽りが合図になった。

 紅院は、身を低くして飛び出す。


 高速で詰め寄り、『フレイムブレイド改』を召喚する。

 刀身が燃えている巨大な両手剣。



「アサルトスキルON! ソニックスイング!」



 斬撃速度と基礎火力を底上げするスキルを使って、燃えるブレードを振りぬく。

 かつて、F級GOOを一刀で両断した事もある自慢の一撃。


 ――だが、


「その程度の斬撃魔法くらい、無詠唱で使えよ、みっともない」


 ロイガーは、召喚したナイフで、

 紅院の一撃を受け止めると、左の掌を紅院に向けて、


「魔力の上等な使い方というものを、少しだけ見せてやるよ」


 ズガン! と、全身に巨大な衝撃を受けて、紅院は無様に吹っ飛んだ。

 ゴロンゴロンと地面に何度もバウンドしている途中で――パチンと音が鳴った。


 その瞬間、紅院の姿が、その場から消える。

 戦いを見守っていたトコは、思わず視線をさまよわせた。


 ロイガーに視点を合わせた時、トコは、消えた紅院の姿を発見する。


 ――ロイガーは一歩も動いていないというのに、紅院を吹っ飛ばした方の手で、彼方に吹っ飛んでいたはずの紅院の首を絞めていた。


「どうだ? と言っても、今、私が、どれだけ高度に魔力を練ったかなど理解できやしないだろうが。ちなみに、今のは、超少量の魔力を圧縮して貴様をふっ飛ばし、音速で練り上げた魔力を解放して時空を操作し、一歩も動かずに君を捕まえた」


「うぐ……ぐぐ……」


「魔法とは、幽界の虚数エネルギーを顕界(けんかい)へと確定させていく高次演算。その処理過程は、当然だが、複雑で難解。そんな魔法の高等制御を為そうとすれば、当然、果てなき悠久の研鑽を必要とする。貴様らのようなほんの数年しか魔法に触れていないガキが、優に数千年を超える修練を経てきた私に、魔力を用いた闘いで勝てる訳がない」


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