38話 喜劇悲喜劇。

 38話 喜劇悲喜劇。


 『バケモノを軽く投げ飛ばしてしまった』という事実に対し、

 センが軽くプチパニックになっていると、

 そこで、


『――ナビゲーション・グールの撃破を確認。転移のワナを発動します』


 奇妙な声が、頭の中で響いた。



(……ナビ……転移……え?)



 センの混乱が収まるのを律儀に待ってくれたりせず、

 ワナは、無慈悲に発動する。


 キュインキュインと耳を刺すような音が鳴り響き、地面に奇怪なジオメトリが広がった。

 と、同時に、センの体が、不穏な青白い光に包まれていく。



「うぇえっ――」



 シュンッッ、

 と、一瞬でその場から姿を消すセン。


 ――その様子を、

 『ここではないどこか』で観察していたオメガは、


「くくく」


 と、心底楽しそうに笑ってから、


「さあ、見ものだな……センエース、お前なら、その絶望を、どうさばく? くくく……」


 などと、そんな言葉をつぶやいた。







 ★






 ――転移が終了した直後、

 グルグルとしている頭を、

 強靭な精神力で無理矢理抑えつけ、

 ゆっくり目を開くセン。


(ここは……シャワールームか? ……え、マジで転移した? すげぇな、おい……この世界って、ガチでテレポートできるんだ……ていうか、転移って、どういう転移だ? 世界を移動した? それとも、空間を――)


 などと、心の中でつぶやきつつ、

 周囲を確認しようと、ゆっくり、振り返ったところで、


「……ぬおっ」






「「「「「え?!」」」」」」






 今、まさにシャワーをあびていた『全裸で固まっている美少女五人』が、

 センの声と気配に気づき振り返った。


 しっとりと、お湯に濡れている柔肌。

 全員、例外なく美しいが、やはり、飛びぬけているのはミレーとトコとツミカ。

 三人とも芸術的な女神。


 一糸まとわぬ状態になる事で、より露わになるその天元突破した美貌。

 きめ細やかな肌は、まるで天使が編んだ絹糸のようで、

 その楚々と整った顔立ちは、まさしく神のオーダーメイド。


 ――この華麗なるCMFNの中、

 数秒間、互いに硬直していたが、



「……どぅぇぇ……マジかよぉ」



 センは憎々しげに舌を打ちながら、

 バっと顔をそむけ、目を閉じ、


(おいおい、おいおいおいおい、なんだ、このアニメ・マンガ・ラノベで200億回は見てきたような、テンプレエロ展開は……ふざけんなよ、クソったれがぁ……)


 心の中で呪詛を吐きながら右手で顔を隠すように頭を抱えるセン。


 この、クリティカルな状況下において、

 女性陣の中では一早く現状を『誤解』した紅院美麗が、

 さほど慌てた様子もなく、優雅にバスタオルで体を隠しながら、


「私達を覗こうだなんて……いい度胸しているわね。褒めてあげるわ、閃壱番」


 紅院の言葉により、他の女性陣も、思考停止状態から回復し、行動を開始しはじめた。


 薬宮と黒木は、慌てる事なく、ササっと手早くバスタオルで体を隠す。

 南雲は慌てて体をバスタオルで隠しながらアワアワと惑乱(わくらん)しており、

 その向こうで、罪華はポケーっとしている。


 トコが、悲しそうな顔で、


「昼間に話してみた感じやと、悪いヤツではないような気がしてたんやけど……どうやら、勘違いやったようやな。やっぱ、人の内側ってヤツは、ちょっと話しただけやとわからんもんやなぁ」


 ボソっとつぶやく。



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