26話 センエースの戦闘力は、

  26話 センエースの戦闘力は、


「まあ、佐田倉もアホやないから、あたしが止めんでも、『素人のあんた』を投げはせんかったやろうけど……佐田倉みたいな『クッソ大柄コワモテの上級生』につかみかかられて、それで、平然としとるて……あんたの神経、どないなってんねん」


 その話を聞いて、センは、


(ふむ……どうやら、俺が、佐田倉を一回転させたところは見ていないようだな。……佐田倉も『素人の後輩に一回転させられました』などという『自分の心証が悪くなるだけの報告』なんざしねぇだろう……となれば、俺の口から説明する必要もなし……あの件は、なかったことしておくのがベストかな、色々な意味で)


 などと、センが思っていると、

 そこで、



「トコ! そろそろ時間!」



 少し離れたところから、

 薬宮トコを見つけた紅院美麗が、

 そう声をかけてきた。


 トコは、ミレーの方に、視線を向けて、


「ああ、うん! いくいく!」


 そう言ってから、

 センに目を向け、


「じゃあ、このあと、ちょっと用事があるから」


「どうぞ、お好きに、どこへでも、いってらっしゃいませ、お嬢様」


 右手を左胸に添えて、恭しく45度の角度で頭を下げながら、

 『落ち度のない洗練された慇懃無礼』を通していくセン。


「……なんか、ムカつくなぁ」


 眉間にしわを寄せて不満をつぶやくトコに、

 センは、軽く笑いながら、


「しゃーないだろ。実際、お嬢様なんだから。セレブリティイジリは免れねぇよ」


「……『アホみたいに金のある家』やなくて、普通に『困らん程度の金がある家』に生まれたかったけどなぁ」


 ボソっとそうつぶやいたトコに、

 センは、


「俺の後ろの席のヤツも同じことを言っていたよ。……正直、俺も同意見だ。『金がない』のが一番ヤバいが……ありすぎても、確実にウゼぇ」


 そんなセンの言葉に対し、


「そやな」


 と、軽くうなずくと、

 トコは、そのまま、紅院のあとを追った。



 彼女の背中を見送りながら、

 センは、

 綺麗な夕焼けを眺めつつ、


「……かえろ」


 ボソっと、そうつぶやいた。






 ★






 ――センの帰宅を見守りながら、

 『ここではないどこか』にいるオメガが、

 ボソっと、


「できれば、戦闘力も削りたかったが……」


 と、つぶやくと、

 オメガの『中』にいるクトゥルフが、


「――削り取ってしまえばよかったのではないですか?」


 と声をかけてきた。


 オメガは、少しだけ間を置いてから、


「できなかった。もっと言うなら、足りなかった。あいつが積み重ねたモノの重さをナメちゃいけない。200億1万年……パっと見は、非常にアホくさい数字だが、その内情はタダゴトじゃない。あいつが積み重ねてきた覚悟と器は次元が違う。そうそう削り切れるものではない」


「もう少し、時間と努力を積み重ねていれば、センエースから戦闘力を奪うこともできたのでしょうか?」


「――『もう少し』じゃねぇよ。センエースから戦闘力を奪おうとすれば、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、激烈に頭が裏返るほどの時間が必要だ」


 『数値』や『物質』や『時空』を奪うのも大変だが、

 しかし、戦闘力は、また一味、ワケが違う。

 もっというなら、『戦闘力』は、システムが違う。


「これは、あくまでも俺個人の意見だが……『センエースが必死になって積み重ねてきたもの』は……『その他の世界全て』よりも重たい」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る