14話 ジブン、なかなかおもろいやないか。

 14話 ジブン、なかなかおもろいやないか。


(ほう。『相手の立場になって考える』ってこともできるのか)


 これまでは、ただただ『ワガママを吐き散らかすだけのキ〇ガイお嬢』だと思っていたが、ここで、センは、彼女のことを、『正常な人間』だと認めた。


 そんなセンの心情の変化を知ってか知らずか、

 トコは、続けて、


「あたしらはアホやないねん。事情と理由を加味した上で、あたしらは自分らの言動を選択しとる。せやから、遠足の間だけは、あんたのことを、普通に、班のメンツとして扱わせてもらう。ただし、そんなあたしらの『あんたに対する配慮』を『特別な好意』と勘違いするようやったら、徹底的に叩き潰す。……『迂遠な言い方』はやめて、もう、今のうちに、直接言うとこか。あたしらに惚れんな。絶対に。もし、勘違いして告白とかしてきたら、一瞬で振るし、その後は、永遠にシカトさせてもらう。理解できた?」


「……十全に理解したよ。というか、心配するな。俺は常に孤高だ」


「はぁ? なに言うてんねん、ジブン」


「だからぁ、一見孤独に見えるかもしれない俺の全てが、実は孤高だという話だ。俺は、俺という枠の中で、すでに、ある程度完成している。ゆえに、ズレた勘違いの果てに、許容できない無様をさらすようなマネは、信念的な意味でありえないからして、つまりは――」


 ゴチャゴチャと、ワケの分からん戯言をのたまうセンに、

 トコは、怪訝な顔で、


「ジブン、薬やってんのか?」


「やってねぇよ。いや、まあ、正直、俺も自分で何を言っているか、イマイチ、わかってはいないんだけれども」


 そんなセンの、

 ちょっと何言っているかわからない発言を受けて、

 トコは、


「っ……くはっ……」


 普通に面白すぎて、噴き出してしまった。

 耐えようと思ったのが、どうしても無理だった。


 これまでにおける人生の経験上、

 『笑顔を見せると、高確率でホレられてしまう』と理解しているため、

 男の前では、常に仏頂面を貫いている彼女だが、

 しかし、センの発言が、あまりに、ツボったため、

 どうしても抑えきれず、


「ヤバいな、自分。ツミカ並みに頭イってるやん。病院、紹介したろか?」


「おい、ごら、ふざけるな……俺と茶柱を同じにするな」


 底冷えする声でそう言われ、

 トコは苦笑し、


「ガチギレやん……てか、一般人にまで、そこまでイヤがられるて……さすが、ツミカさんは格が違った……」


「というか、前提として、俺は病気じゃない。俺以外が病気じゃないだけだ」


 その、とまらない『アホ全開の発言』に、


「――ぷぶっ」


 トコのツボは、くすぐられ続ける。


「あんた以外病気やないって……ほな、あんた病気やんけ! くはははははっ!」


「おい、あまり大きな声で嘲笑するな。周りの注目を買っている。……俺が『薬宮トコを呆れさせた、とんでもない変なヤツ』だと思われるじゃねぇか」


「思われてもしゃーないやろ。事実やねんから」


「俺は何もおかしなことは言っていないだろう」


「ぁははっ! 何を真顔で言うとんねん! 一から十まで、完全にラリっとるやろがい」


 ひとしきり、爆笑をかましてから、

 トコは、センに対し、


「ジブン、なかなかおもろいやないか」


 と、お褒めの言葉を与えたまう。


 終始、納得のいっていない顔をしているセンに対し、

 トコは、また大きな声で笑った。

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