40話 明確なボーダー。

 40話 明確なボーダー。


「ちぎれる、ちぎれる、ちぎれる、ちぎれる!!」


「安心してください。肉をちぎるようなマネはしません。肩甲骨は砕いていきますけど」


「砕くな、砕くな、砕くなぁ!!」


「火手ランク6」


「おい、お前、なんか魔法使わなかったかっ……って、あっつぅううう!!」


「僕の地元では、肉を焼き、骨を砕くという治療法が、一般的でしてね」


「ふざけんな! そんな魔界みたいな地元があってたまるか!」


「非常にお疲れのようですので、念入りにやらせていただきます」


 黒い笑顔でそう言うと、

 アモンはさらに力を込めていく。


「いだいいだいいだ、いだいってぇえ!」


 逃げようとすると、

 しかし、がっしりと掴まれているため、

 まったく動くことが出来ない。


(なんだ、こいつの、このバカ力……う、うごけねぇ!)


「さて、次は電気療法といきましょうか。雷手ランク7」


「ぴぎぎぎぎぎぎっ!」


「先輩の肩コリは、ずいぶんと頑固ですねぇ。仕方ない。ここから、さらに、本格的な施術をしていくことにします。というわけで、まずは、全身に、針を入れていきましょう」


 そう言って、

 アモンは、アイテムボックスから、

 『ドラ〇エのどくばり』みたいな、クソぶっとい針を取り出して、


「まずは、肩こりの特効ツボである『肩井(けんせい)』からいきますねぇ」


 と言いながら、右肩に向かってグサっといく。


「ぶげぇええええ!」


「ああ、ごめんなさい。深く刺しすぎて、肺先を破ってしまいました。気胸になって、呼吸がしづらくなると思いますけど、まあ、でも、肩コリを治すためですし、仕方ないですよね」


 などと言いながら、左肩にも同じように、

 グサっといく。


「だぁああああああ!!」


「んー、まだコリがとれないなぁ……ちょっと神経毒を使いますねぇ。これが、また効くんですよぉ。『人体の防衛反応がうまく覚醒すれば』の話ですけど。まあ、でも、先輩なら、問題ないでしょう。なんせ、この僕を、舎弟にするほどの人なんですから」


 そう言いながら、

 消費アイテムで、ハリに猛毒を付与するアモン。


 問答無用でボーレを壊そうとするアモンに、

 IR3が、


「その辺にしておきなさい」


 と声をかけた。

 すると、アモンは、平坦な顔になって、


「……子分を止めるような言い方はやめろ。この状況下であんたの命令を聞かなければいけない理由はない」


「そのまま続けたら、今後のミッションにおいて、色々と支障が出そうだから、その辺でやめておくべきだと、正式に警告している」


「今後のミッションを円滑に進めるために、徹底的にやっている。どっちが上か知りたいようだったから、こうして、丁寧に教えてあげているんだ」


「もう十分に理解している。そうですよね、先輩」


「ひゃ、100%、よくわかった! もうふざけたマネはしないから、許してくれ!」


 涙目で訴えるボーレの顔を横目に、

 IR3は、淡々と、


「その先輩が調子に乗っていたのは事実。けれど、すでに反省し、降参している。これ以上の暴行は見過ごせない」


「バカは徹底的にやらないと同じ事を繰り返す」


「真理ね。けれど、だからといって、ふりかざしていいものではない。クズに道理を教えるのも、上に立つ者の仕事の一つ。けれど、そこには明確なボーダーがある」


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