31話 おそらく。

 31話 おそらく。


(ギリギリで勝ちましょう。ほぼ引き分けに見えるくらい、ギリギリの接戦に見せて勝つ。それがベストだと私は考える)


(……だね)


 お互いが『納得できる結論』に達したところで、

 アモンとIR3は、ギアを入れ替えた。


 相手よりも、ほんのわずかに上回る程度に、

 自分を丁寧に抑え込みながら、

 ロコとゲンを追い込んでいく。


 『全力でないこと』を決して悟らせない、

 絶妙な力加減で、接戦を演じる。


 その様子を見ていた『全宮ルル』は、


(……今のロコとゲンだと、あの『二人(アモンとIR3)』の『底』を引き出すのは無理のようね……)


 ロコとゲンの目はごまかせても、

 ルルの目はごまかせない。


(けれど『その事実』からだけでも、十分に推測できる。とんでもない実力者。あのロコとゲンを子供あつかい出来るだなんて……まあ、あの二人は、間違いなく子供なのだけれど)


 ロコとゲンは、見た目こそ子供だが、

 しかし、実力はハンパではない。

 現状、この世界に、ロコとゲンを子供あつかいできるのは、

 『五大家の成人(戦闘職)』と『クリムゾンスターズの上位』ぐらい。


(……『この二人(アモンとIR3)』の何より恐ろしい点は、どちらも、明確な『スペシャリスト』であるということ。……間違いなく、あの二人は、『組織』の歯車)


 『個』ではなく『全体』を動かすことを前提としたスペック。

 オーガナイゼーションという概念が前提のスペシャリスト。


 ――『ルルの気づき』は、簡単に言えば、


 所作や言動から、

 『自営業ではなくサラリーマンである』、


 ――と雰囲気だけで理解した感じ。


 それも、窓際族なんかではなく、

 超大企業のスーパーエリートサラリーマン。


 ルルは頭を回転させる。

 経験ではなく、知識と想像力で、

 現状に対する打開を試みる。


(最初から思っていたけれど、この二人の戦闘スタイルには共通のクセが見られる。この独特のパターンと特質は、資質や才能の違いではない。あえていうなら、文化の違い。……同じ歴史を歩んできたとは思えない『骨格の違い』ともいうべき根本のズレ)


 ルルは、戦闘技能の方は、さほど優れていないが、

 戦闘考察力に関してはズバ抜けている。


 純粋な殴り合いは不得手だが、

 巧みな戦術を必要とする戦場においては、

 無類の強さを発揮するタイプ。


 その無類の洞察力が気づかせる。


 ――『この二人』と『自分』は、

   歩んできた歴史が違う。


(……考え方が違う。思想が違う。イデオロギーの相違。哲学の差異……)


 『戦闘思考力の高さ』は、

 周辺視野の広さと直結している。


 全体を見通す目。

 マクロの視点で物事を考えられる頭脳。


 ――ゆえに、届く。

 彼女のイマジネーションは、

 『答え』にたどり着く。




(……おそらく、この二人は……『違う世界』から来た……)




 『現実に即しているか』は、一端置いておき、

 『とりあえず』の『直感』をフル稼働させた、

 『かもしれない』

 を目安に、モノを考えるルル。


 真・第一アルファにも、小説等のエンタメは存在する。

 そして、その題材として『異世界』が用いられることも多々ある。

 『ここ』とは『別の世界』を舞台にした物語。


 だから、


(数日前から各地で起こっている『奇妙な出来事』の『規模』と『程度』から鑑みるに……おそらく、転移したのは、この二人だけではない。数十人……あるいは、数百人という組織単位の異世界転移が行われたとみるのが妥当)


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