88話 相討ち。

 88話 相討ち。


 ――目が覚めると、


「知らない天井……」


 ゲンは、全宮学園の保健室で寝ていた。


 隣にはロコがいて、


「どっちが勝ったの?」


 そう問いかけてきた。


「体の心配よりも勝敗を先に聞かれるのは、少しショックですね」


 などと、思ってもいないことを口にすると、

 ロコはシレっと、


「あんたの体に異常はない。ケムスの方は、結構な損傷だったから、しっかりと回復魔法を使ったけど、あんたの方は気絶していただけ。この前提があるから、おそらく、あんたが勝ったのだろうとは思うけれど、一応、本人の口から結果を聞かせてもらう。損傷はあんたの方が少ないけど、負けたのはあんたの方……という可能性もゼロではないから」


「理路整然と、ご説明、ありがとうございます」


 かるく皮肉ってから、

 ゲンは、


「同じタイミングで気絶したんで、どっちの勝ちでもないんじゃないですか? 気絶するほど無茶をした結果、どうにか、相討ちまでもっていくことが出来た。それが、僕と彼女の闘いの結果です」


「……なるほど」


 ボソっとそう言ってから、


「ケムスと相討ち……そんなこと、今のあんたに出来るとは思っていなかった。あんたの『たぐいまれな根性』を見せつければ、ケムスの考えも変わるだろう、と思って戦闘許可を出したけれど、まさか、それほどの結果に持ち込むなんて……」


 本気で感服している顔で、


「目覚ましい成長速度ね。おそれいったわ」


 そういったロコに、

 ゲンは、


「ま、実際のところは、俺のことを『死ぬほどナメていた』がゆえに、『プライドが邪魔して毛ほども本気を出せなかったケムス』に、とびっきりの不意打ちを仕掛けただけですけどね」


「もちろん、理解しているわ。彼女は、今のあんたが、まともにやりあって勝てる相手じゃない。彼女は本物の天才。今は伸び悩んでいるようだけれど、そう遠くない将来、その壁も突破して、いずれ、世界最高峰クラスまで上り詰めてしまうであろう超人。あたしの見立てだと、彼女は、シューティング・ナイトスターをも超える可能性を秘めた逸材」


「そんな天才を派閥に引き込んでしまうなんて……さすが、ロコ様! カリスマ性がハンパない! よっ、大統領!」


 ゲンのチャチャに対して、

 特に反応することなく、

 ロコはたんたんと、


「彼女がなぜ、あたしの勧誘に応じたのか、あたしは、理解できていない」


 遠くを見ながら、ボソっと、


「ただ、理由はともかく、この幸運は本当にありがたいと思っている。未来のあんたと、ケムスと、ヤマト……あたしの派閥には、『世界と向き合うための組織』の主軸となれる存在がすでに三人もいる」


「ヤマトのことを、味方だと認めたんですか?」


「まだ、完全に信用しているわけではない。けれど、彼女は、おそらく、本気であたしの側についている。あたしの命令を聞く気はないし、あたしに対する忠誠心もゼロだけれど、ヤマトは間違いなく、『あたしの側』にいる。少なくとも敵ではない」


「そうですね……あいつは、間違いなく『ロコ様の側』にいます。完全な味方ではなくとも、あれが『敵ではない』というだけでも、けっこう大きなアドバンテージだと思いますよ」


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