33話 弱さ。

 33話 弱さ。


 セイバーリッチは、

 ユラユラとオーラを増幅させて、


[――ダークグロリア・イミテーション――]


 バフ魔法を使用した。

 と、同時に、

 セイバーリッチは、トプンと、空間に溶け込んだ。



 闇の中を翔けて、

 ナイアの背後をとると、



[――デス・フィールド・イミテーション――]



 ダメージを与えた際に一定確率で即死させることが出来るフィールドを張りつつ、

 その巨大な聖剣を、ナイアの首めがけて振り下ろす。


 ナイアは、そんなセイバーリッチの聖剣を左手の中指だけで受け止めながら、


「……んー? お前、どこにでもいるリミテッドとかわらねぇな……」


 つぶやきつつ、

 セイバーリッチの腹部に軽めの蹴りをいれる。


 かなり軽めに蹴ったつもりだったのだが、


[ぶふぉおおおおおおおおっっ!!]


 セイバーリッチの腹部は破裂し風穴があいた。

 血を垂れ流しながら、もだえ苦しむセイバーリッチを見下ろしながら、


「ああ、悪い、悪い。普通にマジで力加減を間違えた。ガチで、そこまでダメージをあたえるつもりはなかったんだ、ゆるしてくれ」


 フラットな表情でそう言ってから、


「――神の慈悲――」


 言いながら、指をパチンと鳴らすと、

 セイバーリッチの腹部が一瞬で完治した。


「……さて、様子見はもういいから、そろそろ本番を見せろ。あるんだろ? とっておき。この状況で、特に何もないなんて、そんな構成は許されねぇ」


[……ぅ……ぐ……]


 完治はしたものの、あまりの恐怖と圧力から、セイバーリッチは一歩引いた。

 たった一回の攻防で、セイバーリッチは彼我の差を完全に理解し、

 根源的な恐怖に包まれ、根こそぎ戦意を引っこ抜かれた。




[……ば……ばけもの……]




「はぁ? おいおい、待て待て……その後じさりやめろ。下がるな、下がるな、マジで……ごら、動くなっつってんだろ!」


[……ひぃ……]


 ナイアに怒鳴られたことでセイバーリッチは悲鳴をあげ、その場で尻もちをついた。

 あまりにも情けないセイバーリッチの姿を見て、

 ナイアはため息をつき、


「ビビって尻込みって……いやいや、お前、マジで、何しに出てきたんだよ……」


 ナイアの圧力に体の震えが止まらないセイバーリッチ。

 ついには、弱弱しさを爆発させて、



[こ、殺さないで……やめて……む、むり……]



「ちょ、待っ……ふざけんなよ……」


 ナイアの呆れは、怒りにかわっていき、



「たんなるリミテッドバージョンとはいえ、お前もセイバーリッチだろうが……なら、最後まで、重たい闇を抱えてニヤリと笑いやがれ」



[ひぃ……ひぃ……っ]


 すごまれて、よけいに腰が引けるセイバーリッチ。


 その姿を見て、心底からイラっとしたのか、

 ナイアは、瞬間移動でセイバーリッチとの距離を詰め、


「ウザすぎんぞ、てめぇ。なんだ、その過剰な脆さと弱さは。ナメてんのか」


 セイバーリッチの腹部めがけて、拳をつきだした。


[……が、はっ!!]


 腹部を突き破られ、

 当然のように吐血する。


 虚ろな目で、


[……ご、ごめんな……さい……ゆるして……調子にのったこと、あやまります、だから……ゆるして……]


 許しを請う。

 全力で、弱さを見せつける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る