べっとりとした混沌。

 べっとりとした混沌。


「さて……そろそろ自己紹介しておこうか。俺はナイア・ゲン・フォース。ナイアさんでも、ゲンさんでも、フォースさんでも、まあ好きに呼んでくれや。もっとも、ナイアさん以外の名前で呼ばれたら、ちょいと不機嫌になるから、あまりオススメはしないがね」


 意識を向けられたことで、

 それまで、ずっと、ナイアの圧に委縮・硬直していたイグは、

 『キュっと締まってしまっているノド』を、

 どうにか、精神力だけで無理矢理にこじあけて、


「……な、な、何者だ……」


 イグは、先ほどまでの強者感を失っていた。

 プルプルと、チワワのように震えながら、


「ど、どういうことだ……なんだ……その膨大な……ま、まるで太陽のような……その次元が違う大きさは……」


 ハッキリと分かるわけではないが、

 しかし、イグほどの『優れた感受性』があると、

 対峙するだけでも『その大きさに震える』くらいはできるようになる。


「まあ、世の中には『俺みたいな異端も存在しましたよ』っていう、それだけの話さ。……いやぁ、しかし、そういう『正解の反応』をしてくれると助かるねぇ。楽でいいよ。罪帝ヒミコの時は、苦労させられた。イレギュラーの相手をするのはたまらんね。とはいえ、正解の反応ばっかりされても飽きるから……ま、その辺はバランスだよな」


 常時、何を言っているかイマイチわからない。

 そんな雰囲気を、一定以上保ち続けるナイア。


 そこにあるのは狂気と混沌。


 『命を超越した何か』を感じさせる揺らめき。

 まるで濃い霧のように、

 形を感じさせないのに、

 強固な存在感だけはヒシヒシと与えてくる。


「おしゃべりはこの辺にしておこうか。試験の終了時刻まで30分を切ったことだし……これ以上無駄に時間をかけて失格になったら目もあてられない。まあ、そうなったら、全宮ルルと交渉するだけなんだが……あの女は、あの女で、相当な変態だから、最終的には話がまとまらなくて、殺すことになってしまうだろう。そうなると、それはそれでルートがズレて最悪。だから、実のところ、是が非でも、ここで失格にはなりたくない」


 ナイアの発言を聞きながらイグは深い疑念に包まれていた。

 違和感と言ってもいい、妙な不可解。


(これほどの『次元が違う超常』が……試験の結果を気にしているという異常……)


 濃厚な混沌だった。

 まるで、這いよってくるかのような、ベットリとした混沌。


「とりあえず、イグ……お前は邪魔だ」


 そう言って、ナイアが指を鳴らすと、

 ビシュンっと、弾けるような音がして、

 イグの意識は、抵抗する間もなく、

 元のナイフに戻っていった。


 真っ赤に染まっていたナイフは、

 スゥと、綺麗に色が抜け落ちていき、元の白いナイフにもどっていく。


 そして、完全な白に戻ったところで、

 強制的に、ザコーの意識が前面へと駆り出される。


「かはっ……」


 唐突に意識を戻されて困惑するザコー。

 イグが表面に出ている間も、

 多少は意識が残っていたため、

 現状に対する理解は出来ている。


 だから、


「な……なんだ、お前……イグをしりぞけるなど……そんなこと、クツグア(完全院リライトのコスモゾーン・レリック)だって、できるわけ……」

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