入試。
入試。
全宮学園の入試は、受ける『クラス』によって、難易度が大きく異なる。
最難関の『Sクラス』は、そのあまりの難易度から、
合格できるものは、毎年、5人程度。
不作の年だと、一人も受からないということもしばしば。
――ちなみに、全宮学園の入試は、全宮ルルが監督者。
『全宮学園の運営』だけが『人生の全て』である彼女にとって、
裏口・カンニング等の不正入学は『絶対に許せない禁忌』の一つ。
身内であろうと、一切、手は緩ませず、
基準をクリアできなければ、容赦なくたたき落とす。
とはいえ、五大家クラスが落ちる試験など、一般人は誰も受からないので、
実際のところ、ルルの身内が『基準をクリアできないこと』などないのだが。
「ロコ様。ここのSクラスは超人ばっかりって評判をよく聞くんですが……そんなところに、俺みたいな『ちょっとお茶目なだけの5歳児』が受かるもんなんですかね?」
「試験の内容は毎年変わるから『明確なこと』は何も言えないわね。あんたには類稀(たぐいまれ)な根性があるから、『絶対に受からない』とは思わない。ただ、あんたは、まだ子供で、基本的に地力が足りていないから、ヤマトの助力は必須だと、あたしは思う」
「……ですよねぇ」
「心配することはないよ、ゲンくん。この私がついているのだから、大船に乗った気でいたらいいと思うよぉ」
「船の規模がでかければでかいほど事故った時の被害は甚大になるんだよなぁ……」
タイタニックを思い出しながらそんなことを口にするゲン。
と、そこで、
「よく生き残れたわね、ロコ」
背後から声をかけられ、
振り返ると、そこには、
ふくよかな体形の気品あるオバサンがいて、
ロコの目をジっと見つめていた。
「あの様子だと、アギトは確実にあなたを殺すと思ったけど……」
「悪運だけは強いので、なんとか生き残れました、ルル叔母様」
そう言ってから、ロコは続けて、
「……これから始まる試験に受かったら、あたしは、全宮学園の学生。つまりは、ルル叔母様が誇る宝物の一つになる。あなたは『あなたの宝』を奪うものを許さない。たとえ、お父様であろうと、次期当主のアギトお兄様であろうと……あなたは……『全宮ルルの支配領域を荒らす者』を絶対に許さない」
「念を押さなくても、それは私が心に刻んでいる鋼の掟。心配しなくとも、全宮学園の学生になったのであれば、私はあなたを全力で守るわ」
「なんと、頼もしい」
「とはいえ、勘違いはしないように。私は、あなたの『絶対的な味方』というわけではない。あくまでも、私は私のルールに従うだけ。あなたが学生となった場合、『結果的』に、あなたを助けてしまうことは多々あるでしょうけれど、あなたに対して『家族に対する愛情のようなもの』は、微塵もない」
「もちろん、こころえております」
「……理解しているのなら結構」
そう言うと、ルルは、ロコに背を向けて、
「試験がんばりなさい」
そう言い残して去っていった。
その背中を見送ることなく、
ロコたちは、試験会場へと向かう。
その途中で、ゲンが、
「ロコ様」
「なに?」
「家族の中に、信頼のおける人とかいないんですか?」
「いないわね、一人も。全員、敵」
「……そうですか」
「なにか言いたげな顔をしているわね」
「あ、いえ……別に言いたいことはないですよ。ただ……」
「ただ……なに?」
「俺は、ロコ様と違って、才能はないし、金もないし、顔面偏差値もご覧の有様ですが……家族関係に関しては、かなりマシというか……いえ、だいぶ幸福だったなぁと思っただけです」
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