特攻。

 特攻。


「ロコ様、とりあえず、逃げてください。ソウルさんですら勝てなかった相手に、俺が何か出来るとも思えませんが……俺に出来る全部で、どうにか時間を稼いでみせますので」


 そう言うと、

 ゲンは、剣を抜いて、ヤマトに切りかかった。

 そして、迷うことなく、



「ゲン・エクセレント!!」



 覚悟のこもった、素晴らしい一撃。


 そんな『自分に全力の剣を向けてくるゲン』に対し、

 ヤマトは、のんびりとした態度で、


「時間を稼ぐ……かぁ」


 言いながら、

 サラっと、まるで呼吸の延長のようなたやすさで、ゲンの剣をよけて、


「思い出すなぁ……こういうことが、前にもあった……」


 と、天を仰ぎながら、

 小さな声でブツブツと、


「……あれから……ぁあ、もう『5年』もたつのかぁ……時の流れっていうのは早いねぇ」


 などと追憶にふけるヤマト。

 ゲンは、懐古中のヤマトに配慮することなく、


「ちぃ!! まだだ!! 一発で終わると思うなよ! 俺のしつこさをナメんじゃねぇええええ! ゲン・エクセレント!!」


 叫びながら、二度目の特攻。


 だが、ヤマトは、ゲンの猛攻を、

 スルっとよけると同時に、


「うぐっ!」


 右手で、ゲンの顔面を掴んで、


「呪縛ランク9」


 高位の呪いをぶちこまれたゲン。

 今のゲンのオーラと魔力では抗えるはずがなく、

 あっさりと、全身が動かなくなった。


 指一本どころか、小さなうめき声を出すことすら出来ない。

 そんな状態に陥ったゲンに、

 ヤマトは、感情のない声で、


「君を殺すというのは、多角的に私のポリシーに反するから、もちろん、殺さなぁい。もっと直接的な言い方をするなら、君程度を殺すのは、私のプライドが許さなぁい」


 そう言ってから、ゲンの頬を左手でなでて、


「君の勇気と素質はなかなかだと思うよぉ。将来は、結構なポジションまで登りつめるかもねぇ。その時は、君に対して『今日の私が、悪意ある行動は一切とらなかった』ということと『切りかかられていながら、動きを止めるだけで殺さなかった』……という二点を思い出してくれるとありがたいねぇ。間違っても、私に対して大きな怨みを抱いて、付け狙うなんてことはしてはいけなぁい。わかったねぇ」


 たんたんとそう言ってから、

 ヤマトはゲンに背を向けて、ロコに視線を向ける。


「おやおやぁ? なぜ逃げていないのですかぁ? せっかく、この少年が、あなたのために時間を稼ごうとしてくれていたというのにぃ」


「……このぐらいの速度で制圧されると分かっていたからよ。ソウルならともかく、今のゲンでは、ゴキのヤマトを相手に時間を稼ぐことなんて出来ない」


「それでも、一応、逃げてあげれば、この少年の献身も、多少は報われるというものですのにぃ」


 そこで、ヤマトは、チラッとゲンに視線を向けて、


「彼女が逃げなかったのは、彼女の君に対する評価が低いからであって、私がどうこうではないからねぇ。そこは忘れないようにぃ。逆恨みは勘弁してほしいねぇ」


「ずいぶんと、ゲンに対して配慮するわね」


「意味のない怨みを買うのが嫌いなんですよぉ、気持ち悪いからぁ。――あなたから恨まれるのは覚悟していますよぉ。なんせ、これから殺すわけですからねぇ。あの世で存分に恨んでくださぁい。それは当然の権利ですからぁ」


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