フラグON。

 フラグON。


 家族会議が終了し、

 場所を移しての『それなりの規模の立食パーティー』が開かれた。

 非常にゴージャスな料理や酒の数々が並ぶ。

 しかし、当然、食事を楽しめる者は少なかった。


 ギスギスした空気が払拭されることはなく、盛り上がりにかけるまま、

 パーティーもお開きになった深夜、


 ――帰りの車の中で、


「ロコ様……大丈夫ですか?」


 もろもろに対して心配しているソウルさんに、

 ロコは、


「あまり大丈夫ではないわね」


 ガッツリと疲れの見える顔でそう言った。

 パーティーの時までは、いつもの『不敵な笑み』を浮かべていたが、

 この車に乗り込んで以降は、げっそりとした顔で天井を見つめているばかり。


「あまりにも想定外なことが起こりすぎたわ……」


 そう言いながら、チラッと、隣に座っているゲンに視線を向ける。


(……『コレ(ゲン)』の可能性を甘くみていた……あのバカ兄に、正面から『本気の殺意』を抱かせるほどの狂った資質……)


 アギトを『怒らせること』は予定通りだった。

 『過剰にイカれた妹』を『演じ』て、家族会議の場をかき乱す。

 そこまでは想定通り。


 あくまでも『将来起こす予定の革命』の『布石の一つ』として、

 『全宮ロコ』の異常性を家族に見せつけておくこと。

 そこに『実質的な意味』はなかったが、『ロコなりの意義』はあった。


 あえていうなら『宣戦布告の前フリ』ともいうべき行動。

 前フリに興じた理由は、実戦的な理由ではなく、なんというか、

 『ガキらしいちょっとした意地』であったり『抜けきれない精神的潔癖さ』であったり諸々。


(予定よりも随分と早く……『アギトの殺意』が許容量を超えてしまった……)


 一言で言えば、ヘイトコントロールをミスった。

 ゲンというイレギュラーのせいで、

 『ワナや爆弾を設置する前』に『討伐対象』が『怒り状態』になってしまった。


 正直、心の中では焦っていた。

 しかし、引くことはできなかった。


 全宮ロコは、クールに狂っていなければいけない。

 『イカれたところ』はいくら見せてもいいが『みっともないところ』だけは死んでも見せてはいけない。

 『とことん壊れたキ〇ガイ女』であり続けなければ、

 『革命の象徴』たりえない。


 つまりは、実のところ、

 きわめて政治的な境界線上で、

 ロコはあえいでいた。


 と、そこで、ソウルさんが、


「ロコ様。今日は、その……なぜ……あのような無茶を」


 含みのある質問をした。

 ソウルさんは、ロコの目的を理解しているわけではない。

 しかし、何も考えずに生きているバカではないので『ロコが何をしたがっているのか』を『ほんの少しだけ想像すること』くらいはできる。


 ゆえに、感じた違和感。

 今日のロコが『普段ならば超えない壁』を超えたことに対する不協和音。


 ロコは、ソウルさんの質問に対し、

 『テメェの息子のせいだろ』という言葉を飲み込みながら、

 数秒だけ悩んでから、


「気に入らないから……全部ね」


 窓の外を流れていく夜景を見ながら、

 けだるげに、そうつぶやいた。

 ロコの言葉は、ソウルさんが望んでいる回答ではなかった。

 だが、つきつめていけば、結局、そこにいきつく。


(すべての予定が狂った……ここから先は繊細にコトを運ばないと……慎重派のアギトのことだから、さすがに『今すぐ暗殺者を送り込んでくるような短絡的な真似』はしないと思うけど、近日中に、なんらかのアクションは起こしてくると思うから……まずは……)


 アギトの思考を計算しつつ、今後の予定について、修正案を頭の中で並べていく。

 そんな中、市街地を抜け、

 山道に入ったところで、



「――ん?」



 最初にロコが異変を感じ取った。

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