ビッグな男に、俺はなる。

 ビッグな男に、俺はなる。


「下手に気絶させてしまうと、無駄に時間がかかって厄介……という点も面倒だな」


 と言いつつ、

 ダギーは、ゲンをボコボコにしていく。


 急所を外し、

 確実に『痛みを感じる箇所』へ、

 着実にダメージを蓄積させていく。


「ぐげっ!」


 痛みが立体的になっていく。

 高速の拳が、ゲンの感覚に突き刺さる。


 神経が加速する。

 秒を重ねるごとに、繊維の輪郭が明確になっていく。


「がはッ! ごほッ! げへッ!!」


 わずか数秒で満身創痍。

 ダギーは、人の壊し方を熟知していた。


「……ここらで一度、聞いておこうか。どうする? 降参した方がいいと思うが、まだ続けるか?」


 すでにフラフラのゲンは、

 血を吐きながら、


「……降参したいんですけどねぇ……痛いし……苦しいし……辛いし……でも……」


 両の拳を握りしめて、


「ここで降参しちゃうと……『プラン』が崩れちゃうんで……そうするワケにもいかないんですよ……」


「プランねぇ……どういうプランだ?」


「ここで勝って……大金を抱いて、ビッグな男になって……ロコ様に……剣として認めてもらう……そういうプラン」


「……あ、そう……そいつはまた壮大なプランだな……とっ!」


 言いながら、またゲンに拳を叩き込む。

 殺さないように注意するのはもちろん、

 気絶もさせないように、細心の調整を施しつつ、


「治癒ランク5」


 時折『限界を超えそうだ』と思ったタイミングで、適切な量の回復を入れていく。

 生かさず、殺さず。

 器用にいたぶっていく。


「私のメインの仕事は『アギト様の護衛』と『アホなテロリストの排除』なんだが……その流れで『捕縛した敵対勢力のカスを拷問して情報を吐かせる』ということも多々ある」


 ダギーは、しゃべりながらも、ボッコボッコと、


「つまり、心得ている。どこまでやれば気絶するか、どこまでいけば耐えられなくなるか」


 休みなくゲンを殴りながら、


「普通のガキなら、すでに降参しているところ。ガキでなくとも、一般人なら、大人でも、すでに心が折れている……そういうレベルでダメージは与えた……なのに、お前はどうだ」


 ダギーは、そこで手を止めて、ゲンの目を見つめる。


「まったく折れていない……折れる気配すらない……強靭な精神……」


 ダギーにはわかる。

 彼は、拷問のみに従事してきた『スーパー専門家』ではないが、

 しかし『それなり以上』に拷問の経験があるので、

 ゲンの異常性が、ハッキリと理解できた。


「お前をへし折るのは困難。闇雲に殴りつけても時間を無駄にするだけ。ハッキリと分かった。それに、少しだけ……見てみたくなったよ、お前の可能性」


 そう言うと、ダギーは、


「治癒ランク7」


 ゲンのケガをほぼ全快近くまで回復させてから、

 ファイティングポーズをといて、


「来い……お前の全部を見せてみろ。お前の全てを受け止めた上で、この世の現実を叩き込んでやる。何をしても、どうあがいても、どれだけの時間を使っても、お前では『私から降参を引き出すことはできない』という事を教えてやる」


 仁王立ち。

 オーラと魔力はそれなりに練っているが、

 決して全力全開ではない。


 そんなダギーの言葉を受けて、

 ゲンは、


「――虹気!!」


 自分を解放する。

 最初からフルスロットル。

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