俺はもう一人で生きていける。

俺はもう一人で生きていける。



「赤ちゃんのころと比べたら、ずいぶんとたくましくなったけど……これでも、身長は、お隣のケルバ君の半分以下なのよねぇ」

「どうやら、ウチの子は成長が遅いタイプらしいな。まあ、焦らなくても。そういうタイプの子は、成長期になれば一気に伸びる」



 貧弱で小柄な息子に対して、

 心配を隠せていない両親。


 そんな両親の顔を交互に見てから、

 ごほんとセキをはさみ、


「……と、とにかく、そういうわけで、俺も、いい加減、いい歳なので、今日からは親離れして、一人たくましく生きていこうと思います。では」


 さよならを告げ、きびすをかえすゲン。

 当然のように、その首根っこをつかむソウルさん。


「ワケのわからんことを言っていないで、そろそろ寝なさい。歯を磨くのを忘れるな」


「やれやれ……子離れできない人は、これだから困る。いいですか、ソウルさん。あなたの息子は、すでに一人で生きていけるのです。今日から俺は、裏カジノという鉄火場で、しのぎを削る伝説的博徒としての道をひた歩んで――」


 と、そこで、

 ゲンは、ソウルさんが、



「……」



 『ゲンの目を真剣なまなざしで見つめている』ということに気づき、


「……ど、どうしました?」


 そう声をかけると、

 ソウルさんは、ゆっくりと口を開き、


「なぜ、一人で生きていきたい?」


 否定や拒絶を押し付けるのではなく、

 『理由』を問いかけてきた。


 『本気の対話を望んでいるのだ』と一目で理解できる態度。

 だから、ゲンは、


「俺はすでに、一人で生きていけるからです」


 真摯な態度で臨むことにした。


 ソウルさんが、ゴリ押しを仕掛けてきた場合、

 どうにかして逃げ切ろうと考えていたが、

 相手が『本気の対話』でかかってきたのなら、

 逃げるわけにはいかない。


「俺はもう一人で生きていける。なら、一人で生きていくべきだと考えます」


「それは理由ではないな」


 ソウルさんは、そう前を置いてから、


「私の意見を言おう。私はどちらかといえば過保護な部類に入ると思うが――しかし、だからといって、無暗やたらと『子供は、親に守られていればいい』などとは思っていない」


「非常に素晴らしい」


 拍手をするゲン。

 そんなゲンに対し、ソウルさんはまっすぐな目で、


「しかし、親には子供を育てる義務がある」


 ピシャリと言い切って、


「私の義務を、特に理由もなく勝手に取り上げるな、ゲン」


 強い目でゲンに親としてのメッセージを投げかけてくるソウルさん。

 ゲンは負けじと、


「理由はあります。俺は自由になりたい。孤高でありたい」


「……お前は本当に変わった子供だな」


「いやぁ、それほどでも」


 照れるゲン。

 呆れるソウルさん。


 妙な空気感の中、

 ソウルさんは、ゲンの目を見つめたまま真剣な顔で問いかける。


「ちなみに、この家を出て、何をするつもりなんだ?」


「だから、カジノという鉄火場で――」


「ちゃんと答えなさい」


「ちゃんと答えていますよ。カジノの闘技場に参加します。そこでお金を稼ぎ、五大家に実力を認めてもらい、重職について、大金持ちになる……それが俺の人生設計です」


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