凶悪なデバフ。

凶悪なデバフ。


 ゴミスの『実力・潜在魔力』では不可能な圧倒的上昇率。

 その急激極まりないパワーアップを目の当たりにして、

 アモンは即座に確信した。



(や、やりやがったな、あの性悪ババァ……)



 不満と憤怒に包まれる。


 ――アモンは知っている。

 自分の上司がハンパではないことを熟知している。

 もちろん『いずれは超えられる相手だ』と認識しているが、

 10歳の現時点では、まだ、ドナやパメラノといった完璧超人たちには敵わない。


 そんな『絶対に敵わない超越者』の『渾身のバフ』を受けているのが現在のゴミス。


(ドナ猊下がフルマックスで積んだバフ……や、ヤバいな……)


 ジワっと、こめかみに汗が浮かんだ。


 九華の中でも最上位クラスの支援パフォーマンス。

 バフデバフと暗殺と拷問のスペシャリスト。

 後衛を任せた時の安心感がハンパない、破格のスペックを誇る地獄色のバラ。

 それが、九華十傑の第十席・序列三位エキドナール・ドナ。



(――ん? あ……っっ)



 そこで、アモンは気づく。

 自分の体が、ジンワリと重くなっていることに。


(おいおい、ちょっと待ってよ……向こうに対して、あれだけハンパない強化魔法をかけているっていうのに、こっちにも、デバフをぶっこんでくるのかよ……)


 気づけば、魔力が荒れて、オーラが乱れる。

 秒を重ねるごとに、全身が重ダルくなっていき、

 キリキリとした頭痛と、ジトっとした粘質性の眠気に襲われる。


(待って、待って、待って……えぇ、ウソだろ?! あのババァ、どんだけ重ねがけしてんの……やばい、やばい、やばい……)


 軽くフラつきはじめたアモン。

 足も腕も重たく、

 視力も落ちてきた。


 そんなアモンの背中に、

 ドナが優しく声をかける。





「がんばれー」





(ウザっ!)


 歯噛みして、人殺しの目になるアモン。

 心の中で、ドナに対する不平不満を漏らしつつも、

 アモンは、ただのクズではないので、

 とんでもない状況になってしまった――という事をキチンと受け止めて、


(い、いくらなんでも、ハンデキャップが過ぎる……ドナ猊下の全力デバフを受けた『今の状態』だと……正直、愚連の連中にだって勝てるかどうかわからない……かたや、向こうは、ドナ猊下の全力バフを受けた状態で、『さすがの僕でも調子が悪い時なら普通に負けるだろ』ってくらい超絶パワーアップしている……や、ヤバすぎる……少しでもヘタをこいたらガチで死ぬ……っっ……気合を入れなおせ! ここからは、本当の死闘だ!!)


 ダラダラッと、本気の脂汗がにじんだ。

 覚悟という重圧。

 今日まで、『楽連』という『武の地獄』で生きてきたので、

 実際のところ、『この重圧』にも多少は慣れているが、

 しかし、慣れているから『軽い』というわけではない。


(全身全霊……僕の全部で、この困難に立ち向かう! 僕ならば超えられる!)


 本気で気合を入れるアモン。

 その姿を見て微笑みを強めたドナが、


「アモン。貴様の喪失はゼノリカにとって大きな不利益……というわけで……」


 そこで、トーンが一気に落ちて、

 底冷えする声で、


「死んだら殺す」


「……ぃ、いえす、まむ」


 震えながら、

 アモンは両の拳を握りしめた。

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