互いの思惑。

互いの思惑。


「おい、にーちゃん。押し黙ってどうした? もう俺に用はないのか? だったら、解放してくれ。このあと、集会があるんだ。遅れたら、代表に殴られる」


「まだ本題に入ってないんだから、解放するワケがないだろ」


 そこで、バロールは、場を整えるように、

 ごほんと軽いセキをはさんで、


「とりあえず、お前に聞きたいことは、二つ。『エリアAの強者』と『コスモゾーン・レリック』……その二つについて、お前が知っていることを、残らず、具体的に、詳細を喋れ。満足のいく解答がえられたら、お前は解放しよう」


「……なぜ、その二つについて知りたい?」


 と尋ねながらも、

 心の中で、


(……エリアAについての情報を求めるってことは……『完全院』の人間ではなく、外部の人間か……完全院と全宮は仲がいいから、情報は共有しているはず。となると、エリアCDEのどれか? だが、現状の全宮家はギスギスしているって話だから、全体で情報を共有しているかどうかは微妙。――裏社会特有の鮮度の高い情報を求めているって可能性もあるか。『俺』に『コスモゾーン・レリックの情報』を問うているから、最低限以上に『シロアリの情報』はもっている。だから、つまり、これは……あー……ダメだな……まだ情報が足りない……)


 などと、高速思案していると、

 バロールが無表情で、


「……お前には知る権利がない」


「あっそ……まあ、別にいいけどな。ためしに聞いてみただけで、特に知りたいわけでもない。ちなみに、なぜ、わざわざ、それを俺に聞く?」


 牽制、様子見、すっとぼけ、

 色々な画策が混じったガタラの発言に対し、

 バロールは、まっすぐな顔で、


「裏社会の幹部クラスなら、多少は情報に詳しいかと思った。それだけだ」


「……ま、道理だな……」


 そうつぶやくと、

 ガタラは、


(こっちの推察を補強してくれる情報は一つも漏らさねぇ。この猿顔、なかなか丁寧な尋問をしてくる。それはそれで一つの情報だが『使える情報』じゃねぇ……となれば……やっぱり、『最悪』を想定して動かざるをえないよなぁ……ったく、めんどくせぇ)


 そこで、自分の『中』の『蓄積』を確認し、


(まだだな……まだ使えない……ちっ……しかたがない……少し時間を稼ぐか……)


 覚悟を決めると、

 一度深呼吸して、

 たっぷりの間をとってから、

 ガタラは口を開く。


「エリアAの強者……まあ、完全院に関わる連中は全員、ケタ違いの超人だな。五大家の人間と顔をあわす機会なんてないから、やつらが『どの程度強いか』は知らんが、うちの代表が『手を出すな』っていうくらいだから、相当なものなんだろう」


「私はアホじゃないんだ。五大グループがヤバいって事くらいは知っている。具体的に、誰が、どのくらい強いかを教えろと言っている」


 エリアAの支配者『完全院(かんぜんいん)』グループ。

 エリアBの支配者『全宮(すべてのみや)』グループ。

 エリアCの支配者『罪帝(つみかど)』グループ。

 エリアDの支配者『宝極(ほうごく)』グループ。

 エリアEの支配者『久剣(くつるぎ)』グループ。


 この世界に生きる者は、

 例外なく、五大グループの支配下にある。

 もっと直接的な言葉で言えば、

 この世界に生きる者は、五大グループに『飼育されている家畜』でしかない。


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