ボクは届いた。

ボクは届いた。


「師よ……あなた様のお言葉は、いつも、ボクを開いてくれる。100万年、必死になって積んできて、しかし届かなかった最後の領域……どうしても『届かなった世界』に……今のボクは……届いている……あなた様の、果て無き輝きが、ボクの背中を押してくれたから。――だから、これからも、ボクは前に進んでいける……偉大なる師とともに……永久(とわ)に……」


 平熱マンの全身が、鋭いオーラに包み込まれた。

 研ぎ澄まされている。

 魔力も充満していく。

 ――平熱マンは目覚めた。



「……まいります……」



 そう言って、平は飛び出した。

 空間を駆け抜けて、

 センの懐にダイブ。


 ――無詠唱で『召喚した剣』で嵐をおこす乱舞。


 研ぎ澄まされた一手。

 剣技の最果て。


 恐ろしく美しい神の剣。


 けれど、


「ん……なんというか……」


 センは、平の剣嵐を片手でいなすと、

 そのまま、豪速のバックステップで平と距離を取り、


「思ったほどではないな……『お前ほどの天才』が『100万年』も積めば、もっと大きく輝くと思っていたが……『想定していた範囲』の『底辺』を下回っている……」


 そう評して、

 直後、


「お前、ソウルゲートの中で昼寝でもしていたのか?」


 ビリっと、空気が引き締まった。

 センは、決して『甘い親』ではない。


 『素晴らしい結果』を出せば、もちろんほめたたえるが、

 しかし、

 ――『やればできるのにサボった子』に対しては態度が苛烈になる。


 ビリビリとした空気感の中、

 平は、


「師よ……今の剣技が『1000年を積んで得たもの』だとしたら、評価のほどは、どうなりますでしょうか?」


「……1000年で達したのであれば、『想定の範囲内』の『上限いっぱい』だ。よく頑張ったと褒めていただろう。しかし、お前がソウルゲートで過ごした時間は1000年ではなく100万年だ」


「はい。ですので、ここからは『99万9000年を積んで得たもの』をお見せいたします」


「……ほう」


 そこで、平は、

 『自分自身の最奥』へとアクセスして、




「わかる……もうボクは、届いている……」




 グっと奥歯をかみしめて、


「ボクは……この上なく尊き神の弟子……不相応にも、偉大なる神に愛していただけた幸運なる者……」


 言葉が結集していく。

 言葉は覚悟となり、そして象(かたち)になる。



 全ての『昇華された覚悟』を背負った平は、

 その想いを込めて、

 ――叫ぶ。






「 プライマル!!

     プラチナァァ!!

          スペシャルッッ!!」





 センは、その様子を黙ってみていた。

 沈黙と驚嘆の中でセンは、


(……マジか……『限界超えの可能性』が開くとは、マジで驚いた……しかし、今の平にプラプラが一つ追加されたところで、たかが知れている)


 などと考えているセンの向こうで、

 平は、かみしめるように、『自分の両手』を見つめていた。


 平に開眼したのは、

 究極の果てにあるスペシャル。

 ――『史上究極の弟子(勇者)平熱マン』――


 その効果は……



「師よ、確認いたします」


「あん?」



 ――『かすり傷の一つ』でもつけられたら、お前の勝ち。

   お前が勝ったら、『お前のいう事』を黙って聞いてやる――



「間違いございませんね?」


「お前が確認すべきは、お前が負けた時の条件だけだ。お前が勝った時の条件は確認する必要がない。ありえないから」


「……はたして、どうでしょうか」


「勝てんぜ、お前は」

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