P型センエース2号の恐怖。

P型センエース2号の恐怖。


「――で? 質問とは?」

「……何をしに、ここにきた?」

「恐怖を押し込めて、冷静に問いかける……うん、お前はまさに、勇者だ」

「ごたくはいい。二度言わすな。俺の質問に対して、簡潔に答えを述べろ」


 ハルスはギリっと奥歯をかみしめた。

 心が逸(はや)る。

 目の前にいる少年は、『自分(ハルス)を倒したパガロ』を、虫ケラのように踏みつぶした。

 なにかしら『再現不能な特殊アイテム』や『アリア・ギアスがガン積みされた決死技』を使ったという可能性もあるが、

 普通に考えた場合、

 目の前にいる少年は、パガロを虫ケラ扱いできるほど『極悪に強い』ということになる。


 そんな相手に恐怖を抱かない訳がない。

 とはいえ、恐怖に飲み込まれるわけにもいかない。


 ハルスは勇者。

 世界で最も強い男。

 つまりは、

 この世で最も勇敢でなければいけない英雄。


 いくらバカ勇者と蔑まれようと、

 いくら、勇者という概念を、単なる称号扱いしていようと、

 その矜持からは目をそむけるわけにはいかない。


 ――ハルスは、これまでに感じたことのない、

 抱えきれないほどの恐怖に襲われながらも、

 グっと腹に力を込めて、


「目的はなんだ? なぜ、てめぇは、俺の前に現れた?」


 その問いに対し、P型センエース2号は、ニっと微笑み、


「安心しろ、ハルス。お前に用はない」


 そう言うと、

 拳を握り、少しだけ力を込めて、


「……うぐぅ!!」


 トンっと、軽く触れる程度にとどめながら、

 ハルスの腹にノックを一つ。


 たったそれだけで、

 ハルスの意識は完全に飛んだ。

 白目をむいて、その場にバタリと倒れ込む。



 悲鳴をあげたセイラ。

 それにイラっとしたのか、P型センエース2号は、


「うるさいな」


 ボソっとそう言いながら、セイラの眼前まで瞬間移動し、

 ピシンッと『彼女の小さな顎先』をやさしくはじくように、弱めの指ピンを入れた。


「ついでに、お前も」


 そう言いながら、P型センース2号は、近くにいたシグレのアゴにも指ピン。

 二人とも、アゴに受けた衝撃から、脳内がガクガクっと揺れて、

 そのまま、糸を失った人形のように、バタっと倒れた。


 三人とも殺されてはいない。

 ピーツやカルシィとは違い、

 ハルスとセイラとシグレは、気絶をしているだけで息がある。


 ――圧倒的な力で瞬時に三人を気絶させたP型センエース2号は、

 残されたゼンに視線を向けて、


「さて、それじゃあ、はじめようか」


 そう言った。


 P2の威圧感に押され、その場から動けなくなっているゼン。


 どうにか、勇気を振り絞り、

 ゼンが、ゆっくりと、


「はじめるって……なにを?」


 問いかけると、P型センエース2号は、ニっと微笑み、


「本当の、冒険者試験の二次試験」


「……ほんとうの……ねぇ」


 冷や汗を流しながらも、

 ゼンは、男らしく、両の拳を握りしつつ、

 ――しかし、心の中で、


(ハルスを一瞬で倒したこいつに、『ハルスと同じレベルの携帯ドラゴンしか使えない、戦闘力的にはハルス以下の今の俺』が勝てるわけねぇ……エグゾギアさえ使えれば……くっ……)


 現在のゼンは、強化値300%ちょっとの携帯ドラゴンしか使えない状態。

 出力的にも、現状では、ハルスと大差ない。



 ――現状のゼンが、P型センエース2号に勝てる理由はなかった。

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