認知が書き換えられた。

認知が書き換えられた。


「確か、龍試の時にも、ピーツが、ボソっと口にしていたんだ……」


「ピーツが龍試の時に?」


「ああ、ほら。『ラムドを倒して、なんとかみたいな神になる』……みたいなことを言っていただろう」


「覚えてねぇよ、そんな些細かつしょうもないこと」


 ※ 覚えていないのではない。

   認識していなかったのだ。

   これまで、ピーツの発言のほとんどを、

   周囲の者は、正確に把握できていない。


   そうなっていたのは、『ピーツに興味がなかったから』ではなく、

   そうなるように、認知バリアが張られていたから。


「あの迷い言は、いつも通りの、たんなる『ピーツ流イカれ発言』にすぎなかっただろうが、たまたま、名詞だけは私の記憶にある名前とかぶっていて、それで、脳が刺激されて……んー、くそ、ここまで出ているのに……確か……ソ……ソ……ぇぇと……あ!」


 記憶を探り、

 そして、


「思い出した!」


 どうにか、ひねりだす。

 一度つながれば、あとはイモづる式。


 ――認知阻害の殻が砕かれる。

 ――彼女達のイデアが解き放たれる。


 『フーマー東方に隠されていた文献』に記されていた、

 『フーマー大学校の設立に大きく貢献した公卿』の名、


「フーマー大学校の設立に貢献した、かつての大公卿の名は……」


 それは、






「ソル・ボーレ卿」






 ピンポーンという、甲高い音がして、

 扉が開いた。


 運命がうねりだす。

 変革の渦。

 世界が変わっていく。






 ★






 ビリっと、空気に感電して、

 ピーツは立ち止まった。


 奇妙な空気の出所は、探るまでもなく、背後からで、


「……?」


 振り返ってみると、

 ボーレが、鋭い目で、虚空をにらみつけていた。


 これまでのボーレの態度とは一線を画す、

 ビリビリとしたオーラを放っている。


「おい……ボーレ? どうした? お腹でも痛いのか?」



 ピーツの問いかけに、

 ボーレは一切反応せず、


 ただ、ボソっと、


「認知が書きかえられた……」


 静かな声だった。

 スっと通る声。

 ガラっと変わった声質。


 そんな、奇妙な変化を見せたボーレの横顔を見ながら、ピーツが、


「……はぁ? ホントに、どうした?」


 そう問いかけるが、


「……」


 本気で心配そうな顔をしているピーツをシカトし、

 ボーレは、一度、ギリっと奥歯をかみしめてから、


「まさか、私の認知阻害に『穴をあける』とは……完全に想定外だ……これではフローチャートから外れてしまう……最悪、ラスボス・プロジェクトが破綻する……」


 真剣な顔で、ブツブツと、


「P型センエース2号の情動調節はまだ完全ではない……というより、本物とはかなりのズレが生じている。本物であれば、仮にカルシィを心配していたとしても、それを直接口に出すことなどありえない……つまり、P型センエース2号は、まだまだ、センエースには成り切れていないということ。今のままでは、センエース特有の超覚醒など起こり得ない……ゼンにすら、勝てるか怪しい粗悪レプリカ……」


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