美しき最強。

美しき最強。


「どうやら、あのド変態が第一アルファから締め出されたのと同じタイミングで、その枷がなくなったっぽい……が、具体的な理由や機序は知らん」


(……『あのド変態』……? だ、誰の話や……もしかして、トウシが倒したっていう神……)


 困惑しているウラスケに、

 ソンキーは続けて、


「つぅか、わかりたくもない。コスモゾーンの裏事情なんぞに興味はない」


 本当に、一ミリも興味なさそうにそう言ってから、


「お前だってそうだろ? この鉄火場で大事なのは、俺とお前のどっちが強いのか。全力で殺しあった結果、お前が勝つか、俺が勝つか、それだけ。――で? どうだ? この俺に勝てる道筋が、お前にあるか?」


「……」


「ないなら、黙って狩られてろ。この俺が、ここにいる以上、お前に『消滅』以外の未来はない。この俺に『勝てる可能性』があるのは、この世でたった一柱だけ。それは決してお前じゃない」


 そこで、ソンキーは、スっと、歩を前に進めた。

 瀟洒な一歩。

 洗練されていて、美しく、しなやかで、おだやか。


 ウラスケは、動けなくなった。

 呪縛の魔法などは使われていない。

 ただ見入ってしまっただけ。


 ただの歩行を神の芸術にしてしまったソンキーに、ただただ純粋に見とれてしまっただけ。


 ソンキーは、限界なく美しかった。


 純神の最果て。

 闘神の一等星。


 ソンキーは、『自分』という、この場における『絶対最強』を、

 気ままに、踊るように、ただ魅せつける。


 わずかも重心がズレない歩行の末に、

 ソンキーは、ウラスケの目の前に立つ。


 目と鼻の先。

 そこで、ソンキーは、ゆっくりと、右腕の肘だけ軽く屈曲させて、

 スっと、人差指を立てると、


「しゃにむに頑張って、俺に少しでも触れてみろ。できたら褒めてやる」


 そう言って、立てた人差指をフイッと数センチだけ動かすと、


「どぅぐぁあああああああああああああっっ!!」


 ウラスケの全身に衝撃が走った。

 『どこからどう圧力をかけられたのか』――それすら理解できずに、

 ウラスケはその場でひっくり返ってピクピクしていた。




「そこは、神(俺)の御前である。寝そべるなど、不敬であろう」




 ソンキーが、また、フイと指を動かすと、

 ウラスケの全身の筋肉がビキィっと軋んで、

 意志とは関係なく、収縮と伸展を繰り返し、むりやり、その場に立たされる。


「ぐぇ……うぇ……」


 ただ立たされただけでも、全身に、極度の激痛と疲労感と絶望感が走る。


「受けはもういいだろう。さあ、次は攻めてみろ。俺はここから動かない。好きに舞え」


 そう言われても、ウラスケは、


「はっ……ひっ……」


 ただ怯えた目でソンキーに震える事しか出来なかった。


 ウラスケは、まだまだ経験不足で、世界の広さを知らないガキだが、

 しかし、認識力を持たないロボットではないので、

 目の前に立つ神の『大きさ』を理解することは出来る。


 今、ウラスケがソンキーに対して抱いているコレは、決して恐怖ではない。

 そんな『ちっぽけな感情』ではない。


 ただ、しめつけられる。

 足下がおぼつかなくなる。


 まるで、大津波にさらわれているみたい。

 ただ溺れている。

 無我夢中。

 とうぜん言葉になんか出来ない。

 ただ、ガクガクと震えることしか出来ない。




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