ソンキースタイル

ソンキースタイル



「アルテマトランスフォーム・モード【ソンキー】」



 宣言の直後、

 トウシの全身を覆っているドラゴンスーツが、ビキビキと音をたてて変形していく。

 それは、美しさの粋を集めたような、闘神の姿。

 悪魔のようにも見えたし、天使のようにも見えた。

 奈落の銀と凍てつく黒の結晶。

 果てしなく神々しい異形の一等星。



「これが、今の俺の全部だ。さあ、いくぞ、ミシャンド/ラ。……殺してやる」



 加速する体躯が、空を裂いた。

 まるで、強さという概念の向こう側を魅せつけようとしているかのよう。

 獰猛な神。

 重なり合う、黒と銀の螺旋。


 ただ強いだけではなく、数歩踏み込んで強かった。

 純粋な理解を拒んでいる、ヤンチャな武。


 謳うように、

 弾くように、

 揶揄するように、


 トウシは、さらに加速する。

 さらに、さらに、先へと進む。


 そんなトウシの非常識に対し、

 ミシャは、


「私の闇を――」


 真正面から、


「――ナメるなよ」


 対峙する。


 凶悪な強さを誇るトウシ。

 そんなトウシとミシャの力は、驚くほど拮抗していた。


 全ての音が炸裂音になって、空間のあちこちにヒビが入る。

 肉がはじけて、血が乱れ飛ぶ。

 時間の経過に伴い、ミシャとトウシは、差異なくボロボロになっていく。


「強いな! ミシャンド/ラ!! あんたは、ガチャ運だよりのワシと違って、その強さを、すべて、自力で手に入れたんやんなぁ! すげぇわ! 尊敬する!!」


 ドガンと拳を叩きこみ、

 ズガンと膝を喰いこませる。


 積み重なる次元震。

 崩壊が連鎖していく。


 純度の高い暴力が、

 延々に繰り返される。


 余波だけが、影の断層になって、

 チラチラと冷たい結晶になっていく。



 肉体全てを核弾頭にして、ミシャを押し切ろうと躍起になるトウシ。



 そんなトウシに一歩も怯まず、

 ミシャは、


「タナカトウシ! 貴様は異常だ! 狂っている!!」


「うれしいねぇ! そんなに褒めてもらえて!!」


「貴様のような不条理を、私は許さない! 貴様の強さは認めるが、貴様の存在は認めない! 認めたくない!!」


「好きにせぇ! あんたがどう思おうと知ったことやない! ワシは、ただ、あんたを超えて、神を討つ!! 策をなくし、切札も全部さらして、もう何もなくなったが! それでも! ワシは、絶対に負けん! 絶対に守る! ワシの全部で! この絶望を殺したる!!」


 ズタボロの姿で、互いに、大声を張り合う。

 言葉と拳を交わし合い、

 互いの奥深くへと潜り、

 覚悟を晒し合って、


 ――だから、

      ついには、




「……っ……こんな……ふざけたこと……」




 ミシャは、ガクリと、膝をついた。

 勝敗が決した瞬間。

 力なくうなだれて、最後に、


「まさか……この私が……本当に負けるとは……っっ……ありえない……ここまでくると、もう笑えない……」


 憎々しそうにそう言ってから、

 スゥっと、音もなく、

 その場から姿を消した。


 完全に消えてしまったミシャの残滓を見つめおえると、

 トウシは、


「……はぁ……」


 天を仰いで溜息をついた。

 深い、深い、溜息。


 気が抜けたのか、先ほどのミシャンド/ラと同じように、ガクっと膝から力が抜けて、その場にへたりこんでしまう。

 そんなトウシを、最初に支えようと駆け寄ったのは、やはりジュリアで、

 トウシの体を支えながら、


「遅刻するほど修行したなら、もっとスマートに勝ったら? ほんとうに、あんたはダサくてキモい」


 いつもと、なんら変わらない言葉を投げかけた。

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