それぞれの選択。

それぞれの選択。


 アダムがツラツラと述べた後半の言葉は、蜜波ミナミの耳には入っていなかった。

 彼女が重視している情報は一つだけ。


「……最初の一人だけ……」


「たったの一人だけとはいえ、偉大なる神の祝福をたまわる事が出来るのだ。その事に感謝し――」


「感謝しています。『どんな願いでも叶うチャンス』を頂けた事……神様に、心から感謝します」


「……ならばいい」


「もうひとつ質問させてください。このゲームにおけるフレンドリィファイア(味方に対する攻撃)の有無をお聞かせください?」


「普通に有りだ。狂人プレイがしたければ、今すぐにでも暴れるといい」


「狂人プレイをする気はありません。質問に答えていただき、感謝します」


 そう言うと、ナツミは、アダムに背を向けて、

 同年代の少年・少女たちの顔をみながら、


「申し訳ありませんが、私は一人で闘います。私には、どうしても叶えたい願いがあるので」


 その発言を受けて、

 岡葉が、


「ちなみに、その願いって?」


「母の病気を治してもらいます。現代医学では絶対に治せない病気……しかし、『ベジータをも倒す事ができる神様』なら、余裕でしょう」


「……なるほどね。立派な理由だ。もし、なんだったら、お手伝いしようか? ボクは生きて帰りたいだけだから。それに、よくみたら、君はすごくかわいいし――」


「結構です」


「おっと……即答だね。ちなみに、断る理由は?」


「私は、人の『醜さ』をよく理解しているからです」


「……『なんでも願いがかなう権利』を前にすれば、確実に裏切られて横取りされるだろうから、仲間はいらない……ってことかな?」


「そのとおりです」


「一つ聞いていい? 逆にボクを利用して、横から、かすめ盗ってやろうとかは思わなかったの?」


「はい、一ミリも」


「それは……あれかな? そういうので助けられてもお母さんは喜ばないからとか?」


「母が助かるのであれば、私はなんでもしますよ。強盗でも殺人でも。母がどう思うかどうかなんてどうでもいい。もう一度、元気な姿を見せてくれるのなら、私はなんでもします」


「良い覚悟だね。けど、それなら、余計に疑問が大きくなる。どうして――」


「私は、おそらく、この中で一番強い。あなたがたは足手まといにしかならない。それが理由です」


「ハッキリ言うね。ところで、ソロプレイ宣言は危険だと思わない? 確かに、見たところ、今の段階では、君が一番強いけど……もし、チームを組まれて、そいつらがプレイヤーキルをしようとしたら、なかなか大変だと思うけど。それに、今はまだまだ序盤だから、報酬でもらった無料10連の結果でも色々と違いが出て――」


「私は、今の時点でも、すでに、とびっきりの切札を持っています。言っておきますが、私は、最初のガチャで、かなり良質な強化アイテムを引いています。あなたたちの無料10連の結果がどうなるか知りませんが、ちょっとやそっとの強運では、私には勝てませんよ。私も、このあとで、10連を引いて戦力を整えますしね……私を殺そうとする時は、相討ちを覚悟で向かってきてください。数の不利で、こちらが絶対に負けるという状況になっても、確実に一人は道連れにします」


岡葉「……こわいね。君が引いたのは、もしかして、メガンテ的な技なのかな?」


蜜波「さあ。どうでしょう。切札をバラしはしません」


 そこで、薄く笑ってから、


蜜波「ちなみに言っておきますが、私は、死に物狂いでクリアを目指します。もし『生きて帰りたい』という、それだけが目的ならば、私の邪魔にはならないよう気をつける事をオススメしますよ。私を生かして暴れさせておいた方が、『あなた方が生き残れる確率』は間違いなく高い。――それでは、失礼します」


 そう言って、三つ編みの美少女は、独りでさっさと荒野へ向かっていった。



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