なぜ、この子にこだわる?

なぜ、この子にこだわる?



「フッキ? 知らないな。『知らないもの』と比べられても何とも……いや、まあ、それは、どうでもいいや。とにかく、俺という個が、すごく高い場所にいるって認識に間違いはないよね?」


「ああ」


「ふふ、そりゃそうだ。こんな異常な力……『高み』でない訳がない。最果てでないワケがない。君もそう。恐ろしく高い場所にいる。――俺たちは、そういう世界で、今、純粋に殴り合っている。すごいと思わないか?」


「……そうだな……冷静に、客観的に考えてみたら……すごいことだ」


 そこで、ゴートは、


「なあ、蝉原」

「なにかな?」


「俺を殺す事だけが目的で、それ以外はどうでもいいなら……俺が勝つかどうかは関係なく、リーンを解放してくれ」


 そんな頼みを耳にした蝉原は、

 黒くニィっと微笑んで、


「それじゃあ、つまらないだろ」


 そう言った。

 しかし、その答えを予想していたゴートは即座に、


「逆だ。そうしないとつまらなくなる。もしリーンを解放しないなら、俺は本気で闘わない。無抵抗で、お前に殺されてやる。間違いなく、何一つ面白くないと思うぞ」


「……」


「リーンを解放しろ。そうすれば、俺は俺の全部でお前と対峙すると約束する」


「なぜ、この子にこだわる?」


 その問いを受けて、


「……」


 ゴートは数秒悩んだが、

 決意をしたように、

 ギュっと目を閉じて、



「……すきなんだ、その女のことが……なぜか、どうしようもなく……」


「そうか。君ってロリコンだったんだね。――おまわりさん、この人です」


「……」


「はは、冗談だよ。しかし、女を好きになる……か。それは、俺には分からない感覚だ」



 そう言ってから、天を仰いで、



「センくんも俺と同じで、『そういうのが分からない側の人間』だと思っていたけど、勘違いだったのかな?」


「いや、勘違いじゃない。俺は、色事にあまり興味がない人間だった。女を好きになるという感覚。そんなもの、少なくとも、元の世界にいた時の俺にはなかった」


 けど、と接続詞をはさんで、


「自分で自分に引くくらい、今の俺は、リーンの事が好きなんだ……だから、頼む。リーンは解放してくれ」


「では、五分後に、彼女を殺す事にしよう」


「……」


「君が本気を出そうが出すまいが、彼女は五分後に死ぬ。止める方法は一つ。五分以内に俺を殺すことだ。もし、無抵抗を貫くなら……退屈だけど、まあそれでもいいよ。君にとって『都合がいい条件』を聞くより、退屈の方がまだましだ。ふふ、忘れちゃった? 俺がそういう人間だってこと」


「……そんなイカれた事を言うヤツの事を人間とは言わない。お前みたいなヤバいヤツのことは、基本的に、世間一般では悪魔っていうんだ」


「はは、俺は悪魔よりも人間の方が、よっぽど醜悪な生き物だって思うんだけど……まあ、そんな事はどうでもいいか。さあ、下らない事を言っていないで、俺を殺す事だけ考えてなよ。そうじゃないと……ただ終わるだけだよ?」


 そう言って、蝉原は、魔力とオーラを練り上げた。

 ここまでの互いを試し合うような肉体だけのぶつかり合いはやめて、これからは本気で殺し合うという証。


 蝉原の覚悟を受けて、

 ゴートは、


「ちっ……くそがっ!」


 悲鳴のような叫び声をあげて、魔力とオーラを練り上げる。


 そして、全てをぶつけた。


 全力に全力を重ねて、できる全てで蝉原とぶつかった。


 オーラドールも、レーザーソードも、システムも、ソンキー・シャドーとの融合も、全部、全部、全部、使った。

 全てのチートを駆使して、蝉原を殺そうと腐心した。

 けれど、



「センくんの技は、どれも見栄えがいいね! しかし、派手なだけで重みがない!」



 結果はあっけなかった。

 蝉原との間には、『勝てる訳がない差』があったのだ。


 蝉原の『戦闘力』は、ゴートと同じでカスみたいなものだったが、

 存在値の数値的暴力差がありすぎた。



 Gバグの補助を受けた蝉原の『数値』は、ゴートを遥かに凌駕していた。


 ゴート・ラムド・セノワールは、間違いなく凶悪な力を持っている。

 だが、そんなゴートを……

 数多のチートを使い、『数値』のみをひたすらに底上げしてきたゴートを、

 ――蝉原勇吾は、超えていた。


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